第75話 吠えられた私こと、恥知らずな私

文字数 1,121文字

 始めに今日も僥倖に恵まれ、笑えない番外編は明日以後になる事をお断りしておく。

 今日の事なのだが新宿の熱帯魚屋さんへと向かう往路での事、前を行くブルドッグ君が何度も立ち止まる度に飼い主の男性がリードを引っ張って前に進むように、と、促していた。
 私は熱帯魚こそ飼っているが愛犬や愛猫は飼った事が無く、前を行く愛犬家の様子を眺めながら大変なものなのだなぁ、と、感嘆頻り。
 しかしながら私は愛犬や愛猫が何をしたいのか或いは何を言いたいのか、そんなもの迄は人に伝わる事は有るまいとずっと思っていた。
 ところが今日遂に私は、彼等にも意思が有る事を思い知ったのである。

 調度モバイルショップに差し掛かった時の事だが、今迄ブルドッグ君が前に進むようリードを引っ張っていた飼い主の男性が立ち止まり、今度はブルドッグ君がリードを引っ張るような格好になっていたのだ。
 何事かと飼い主の男性を見遣れば、首を伸ばしてモバイルショップの中を覗き込んでいるではないか。
 こんな時期に新機種のスマホって出たっけかなぁ、と、私もモバイルショップの中を覗き込んでみた。
 するとギリギリのミニスカートの女子が前屈みになって、カウンターに乗り出すようにして女性店員さんと話していたのである。
 何とミニスカートの中から黒いストッキングのデリケートゾーンがチラと垣間見え、物凄くセクシーな様相を呈しているのである。
 恐らく本人もカウンターの中の女性店員さんも話に夢中で、全く気付いていない筈だ。
 それを良い事にブルドッグ君の飼い主と来たら、本当に何と言う恥知らずな男なのだろう。
 
 私は迷う事無くスマホを弄るふりをして、ブルドッグ君の飼い主と同様モバイルショップの中を覗き込んだ。
 そうなのである。
 チラとでも見た以上は私も恥知らずな男に成り下がっているのだから、恥知らずに成りついでなのだ。
 ここはこの僥倖を享受し続ける他あるまい。
 と、次の刹那の事。
 ブルドッグ君が私の方に近付いて来て、ワンワンと2回〜3回吠え立てたのである。
 次いでリードを引っ張りながらこちらを見遣ったブルドッグ君の飼い主の男性と、自然に眼が合ってしまった私。
 直後二人で苦笑混じりの会釈を交わした。
 恥知らず同士の挨拶である。

 その後飼い主の男性を引張っるようにしてその場を去ったブルドッグ君。
 してみるとブルドッグ君はきっと、「おい、お前いい加減にしろよ!」、と、私に言いたかったのだろう。
 絶対にそうだ。
 
 ここで一つ。
 愛犬や愛猫の居る人も、そうでない人も聴いて戴きたい。
 彼等には絶対に意思が有る、と。
 そして恥知らずな事をすると、彼等は容赦無く我々に注意するのだと恐惶謹言させて戴く。
 かしこ。

 
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