第96話 濃厚接触を避ける為「元彼」と別れたギャルこと、東京都の為なギャル

文字数 1,367文字

 昨夜所要で出掛けたついでに、新宿歌舞伎町の輸入菓子を扱う店に立ち寄った時の事。
 午後8時頃だったろうか歌舞伎町最大の広場の前を通り掛かった処、何組かのグループが缶ビールや酒を持ち寄り酒盛りをしていた。
 余り関心出来る事では無いにしても居酒屋で有ろうがバーで有ろうが、飲食店と言う飲食店が午後8時で閉まるのだから、そう言う人達も出て来るだろう。
 まん延防止等重点措置が適用された東京23区なら、何処でも似たり寄ったりだと思う。

 と、一際眼を惹く女子3人組が居た。
 何故一際目を惹くかと言うと3人共ギャル系女子なのだが、その内の1人がへべれけに酔っていて、何より印象的だったのは3人共が赤等原色の個性的なマスクを着けていた事だ。
 思うに広場で酒盛りをしていたのではなく、午後8時になって呑んでいた酒場を追い出されたのだろう。
 他の2人に見守られながら、酔っ払いギャルは広場の獅子の彫像に凭れ掛かっていた。
 何やら大声で叫んでいたのだがその内容が余りに奮っていたので、私は思わず立ち止まりスマホを弄るふりで遠巻きに様子を覗った。

 酔っ払いギャルの曰く。
「わらひ(私)はフラれたんじゃないぞぉ!
 ろうこうへっひょく(注・恐らく彼女は「濃厚接触」、と、言いたかったように思う)を避ける為に、あいつと会わなかったんだかんね。
 とうきょうろの(注・恐らく彼女は「東京都」、と、言いたかったように思う)為に、あの糞男と別れた訳〜。
 それをあの、馬鹿野郎が〜」

 それを宥める友人のギャル。
「はい、はい、分かった、分かった。
 フラれた訳じゃないかんね。
 あんたは何も悪くない」

 尚も声を上げる酔っ払いギャル。
「それなのにあの馬鹿野郎は、他の女とろうこうへっひょく(濃厚接触)しやがって」 
 
 と、もう1人の友人のギャルが切り出した。
「つか、放っとけないし、ラブホ行こうよ。
 女3人なら入れてくれるだろうし、3人で割れば大した金額にならないだろうから」 
 
 至極まともな意見である。
 しかし何も酔っ払いギャルに向けられた言葉では無いのだろうが、友人の彼女の意に反して酔っ払いギャルが即応した。
「そうだぁよ、ラブホ行こうぜ〜。
 つかさぁ、今頃糞男はさぁ、他の糞女とろうこうへっひょく(濃厚接触)してんじゃね?
 その部屋に踏み込んでやる!
 行くろ〜」
 
 そのままどちらが連れて行かれているのかも分からない無いような状況で、酔っ払いギャルと友人のギャル3人組は歌舞伎町のラブホ街へと消えて行った。

 そうして彼女は実に「彼」、否、「元彼」との別れを時節柄濃厚接触を避ける為、或いは東京都の為、と、主張していたのだが、赤の他人の私でさえそんな物は真っ赤な嘘だと分かる。
 それにしても、「元彼」を寝盗られてしまったのか、或いは浮気現場を目撃してしまったのかは分からないが、彼女に取っては自棄酒を喰らう程に辛い体験だったのだろう。
 こんな時期なのでそうした自棄酒等の行為は控えるべきであろうが、感染症対策と相反するのが恋の進展と少子化問題である。
 世の中簡単には行かないのものだ。

 と、ここで一つ。
 世の節操の無い男共へ、「N501Y」の脅威に見舞われている今、せめて彼女以外との濃厚接触はアフターコロナを迎えてからにするべきである、と恐惶謹言させて戴く。
 かしこ。


 
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