第37話 「ブー婆ぁ」こと、鋭い選球眼を持つ美女ハラ女子社員

文字数 1,153文字

 毎月月末だけ通っている派遣のバイト先で、凄く太っていて滅茶苦茶意地の悪い現場責任者のオバさんが居るのだが、私はその女子社員の事を胸中で「ブー婆ぁ」、と、呼んでいる。
 何しろ難癖を付けてくるのだ。
 例えば自力で出来る内容の仕事でも、彼女に質問しないと機嫌が悪くなる、と、言う超面倒臭い奴なのである。
 つまり「ブー婆ぁ」は自分は知識が有って凄く仕事が出来るんだ、と、ドヤ顔で派遣の我々にマウントを取りたいのだ。
 そんな「ブー婆ぁ」が現場責任者だった先日の事、やはり若干1名の犠牲者が出た。
 ソーシャルディスタンスのお蔭で隣席とはかなり距離が有ったが、ふと見ると自分の右隣の席の女性が「ブー婆ぁ」に虐められているではないか。
 凄くきちんとした身なりをしていて、髪もきっちり纏めている女性だ。
 マスク越しにも美女と思しき彼女。
 然るに「ブー婆ぁ」は美女と見るやイビリ倒す、と、言う最悪な習性を持っているのだ。
 所謂美女に対するハラスメントである。
 この先これを「美女ハラ」とでも言おうか。
 そんな美女ハラからその美女を救うべく、私は直ぐ様挙手をしてやった。
 またその際「ブー婆ぁ」が1番欲しい、と、思う質問を用意していた事は言う迄も無い。

 但しその際私は挙手した手の人差し指と中指をくっつけ、尚且つそこから少し離して薬指と小指をくっつけ、豚足Vサインを作り挙手してやったのである。

 ムッフッフッフッフッ。
 ざまぁみろ、「ブー婆ぁ」め。
 まんまとやっ付けてやったぞ。

 が、「ブー婆ぁ」は疎か、隣席の美女さえその事に気付かないではないか。
 その後2〜3回程豚足Vサインの挙手をしたが、全く気付かれなかった。
 やはりそれは「はい」、と、言いながら挙手したからではないのか。
 そこはやはり「はい」ではなく、「ブヒー」
、と、言って挙手すべきだったか。
 何れにしても失敗してしまった事は確か。
 結局私は「ブー婆ぁ」の1番欲しいであろう質問をしてしまい、「ブー婆ぁ」をやっつけるどころか、「良い所に気付きましたね」、と、褒められてしまったのだ。
 うーん。
 思うようにいかない。
 と、思っていたのだが、美女だと思っていた隣席の女性がマスクの紐が切れてしまったようで、マスクを取り替えようとした。
 刹那私はその美女と思しき女性の顔を見逃さなかったのだが・・・・・。
 うーん。
 ひょっとすると私の勘違いだったかも。
 それに私がそう思ってから以降は、何故だか「ブー婆ぁ」のその女性に対する美女ハラ行為がピタッ、と、止んだのであった。
 その事からすると美女だと思っていた私の勘違いは、やはり勘違いだったのかも知れない。
 と、すると、「ブー婆ぁ」の選球眼は間違い無いと言う事になる。
 否ぁー、しかし、恐るべき「ブー婆ぁ」の選球眼であった。
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