第101話 マダムのブラウスが出ている事を指摘した大型犬こと、そうでは無い彼

文字数 1,130文字

 昨日の朝方マスク越しではあるが、皆さん70代~80代と思しきマダムや紳士が各々自慢のペットを連れ、私の自宅付近の河川沿い広場に腰を降ろし談笑していた。
 皆さん結構な大型犬を連れていらっしゃる。
 何時も私が朝出掛ける際にその場所を通ると、必ずと言って良い程いらっしゃるのだが、不思議な事にトイプードルやチワワと言った今流行りの小型犬が一匹もいないのだ。
 紳士やマダムは世代的にそう言った小型犬に馴染みが無いからだろうか。
 或いは戸建てからマンションへ、と、都心部の住環境が変わって行った末により小型犬が望まれるようになった訳で、紳士やマダムが皆さん戸建てに住んでいるとすれば、敢えて小型犬を飼う必要が無いからなのか。
 何れにしても大型犬を飼うには、せめても庭が有る方が飼い易い筈だ。
 何より小型犬の方が飼い易いのは言う迄も無いが、紳士やマダムが大型犬を好むのはやはりそう言った住環境に因るものなのだろうか。 
 それとも単なる犬種の流行傾向に因るのか。
 愛犬を飼った事の無い私には難題だ。

 そんな事を考えながら通りすがりに紳士とマダムの一団を見ていると、真っ白な大型犬がマダムの後ろで盛んに吠え立てているのが見て取れた。
 マダムの飼い犬であろうか。
 立っているマダムの後ろで吠え止まない。 
 するとマダムが自身のブラウスをスカートに押し込みながら言った。

「まぁ、この子は滅多に吠えないのに。
 ありがとうね。
 ブラウスが外に出てたわ。
 よし、よし」

 そう言って真っ白な愛犬を撫で上げた。
 また廻りに居た紳士やマダム達も、盛んにその事を誉めそやした。

「本当だね。
 賢いね、◯◯は」

 そう言って皆さんマダムの真っ白な愛犬に大喝采を贈った。
 してみるとマダムや紳士が大型犬を飼う理由は、小型犬より賢いからなのか。
 と、一瞬思ったが、否、それはどうだろうと思い直した私であった。
 何となれば真っ白なマダムの愛犬の視線の先には、車道を隔てた向こう側に同じような犬種の真っ白な犬が、飼い主に連れられて歩いていたからである。
 リボンをあしらった服を着た車道の向こうの女の子であろう真っ白な彼女に、一目惚れしたのであろうか、ブラウスを仕舞うマダムの飼い犬の男の子であろう彼。
 どうやらマダムや紳士が大型犬を飼うのは賢いからだと言う説は、「幻~っ!」であった。

 と、ここで一つ。
 マダムや紳士が何故大型犬を飼うのかの理由等、どうでも良い事なのだ。
 何となればトイプードルやチワワを飼う人の愛犬に対する愛情も、大型犬を飼うマダムや紳士の愛犬に対する愛情も、それ等は総て尊いものだからである。
 例えそれが「親馬鹿」と言われる類いのものであってもだ、と、恐惶謹言させて戴く。
 かしこ。


 
 
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