第95話 スーツケースを引き摺る女性こと、ちっちゃ鋭い女性

文字数 1,308文字

 今日は午前中から所要で新宿へ。 
 その往路での事後ろ姿しか見てはいないのだが、凄く背の高いスタイルも超絶に素晴らしい女性が居た。
 淡いピンクのスプリングコートを着ていて菜々緒ばりにスタイルが良いので、ついつい眼で追ってしまうのは男の性と言うもの。
 そんな彼女の手元をふと見ると、少し大き目の黒いアタッシュケースを提げていた。

 ん?

 と、思いきや、それは眼の錯覚で、提げていたのはスーツケースだった。
 キャスターが付いていたのだが大して荷物が入っていないのか、彼女は転がさずに手で提げていたのである。
 長身の彼女が提げるとスーツケースもアタッシュケースに見えてしまうのか、と、感慨頻りの私。 
 そうしてアタッシュケースがスーツケースに見えてしまうイメージに捉われていた私は、またも誤認をしてしまった。

 その後所要を済ませた復路で新宿を歩いていると、スーツケースを提げている「ちっちゃめ女性」に遭遇。
 普通なら目立たない「ちっちゃめ女性」なのであるが、今日の「ちっちゃめ女性」は目立つ事この上無い。
 かなり向こうから歩いて来るのだか、ロングのブロンドでしかも巻き髪、と、言う超主張の強いタイプの「ちっちゃめ女性」なのだ。 
 口元にはピンクの愛らしいマスクを着用。
 そんな「ちっちゃめ女性」が、Gマークブランドのスーツケースを提げていた。

 ん?

 と、思いきや、これも眼の錯覚で、Gマークブランドのトートバッグであった。
 良く見るとキャスターが付いていない。
 余りの「ちっちゃめ女性」のちっちゃさに、トートバッグがスーツケースに見えたのだ。
 中には相当荷物が詰まっているのだろう。
 遠目に見ても引き摺る寸前なのだ。

 私は「ちっちゃめ女性」を助けねばなるまい、と、男の使命に駆られるも、赤の他人である私が女性から荷物を預かる訳にもいくまい。
 如何したものかと思案するも、私には上手い立ち廻りが思い付かない。
 と、その刹那の事である。
 調度私の歩いていた数メートル先で、「ちっちゃめ女性」の後ろから遣って来た20代前半と思しき男性が、「ちっちゃめ女性」から荷物を受け取ったのである。
 ほっ、と、一息吐くも、擦れ違う刹那の事。
 私は見てはいけないものを見てしまった。

 固辞していた「ちっちゃめ女性」だったが、同僚なのか後輩なのかの20代前半と思しき男性が荷物を受け取ろうとした瞬間、マスクの上の目許をギラと光らせたのである。
 それは男性が視線を手元に向けた為、「ちっちゃめ女性」の顔が彼の視界から消えた瞬間でもあった。
 思うにマスクで塞がれているとは言え、恐らく「ちっちゃめ女性」の口元は嗤っていた筈。
 私は凍り付く思いであった。
 小ちゃ可愛い筈の「ちっちゃめ女性」が、何と猛禽類の眼をしたのである。
 ひょっとしたら、引き摺るようにして歩いていたのも計算の内?
 と、疑いたくなる程の鋭い眼光であった。

 ここで一つ。
 困っている「ちっちゃめ女性」を放ってはおけ無いのが男の性だと言えようが、その場合「ちっちゃ可愛い女性」を助けたと自分では思っていても、実の処「ちっちゃ鋭い女性」の場合も有るのだ、と、恐惶謹言させて戴く。
 かしこ。
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