第79話 卒業袴の女子とマダムこと、メイクの付き難いマスクの女子と聴き違えマダム
文字数 1,384文字
昨日の事なのだが、新宿西口で動画なのか映画なのかの撮影をしていた。
カメラが被写体の女性を捉えていたのだが、その女性がハッカー集団アノニマスのシンボルとして有名な、ガイフォークスマスクを着けていたのである。
あの口髭男を模したコミカルな仮面である。
と、調度私の直ぐ前を正装した70代〜80代と思しきマダムと、彼女に寄り添う袴を履いた20代前半と思しき女子が歩いていた。
季節柄女子大学生の卒業式帰りなのだろう。
本来なら謝恩会が執り行なわる処だが、蜜を誘発する集団での会合は見送りとなる。
それが故に家族だけで食事会を開催。
その後家族だけで写真撮影でもしたか。
で、マダムを一人で帰らしてはならぬ、と、
卒業袴のお孫さんが駅迄マダムをお見送り中、と、そう考えるのが妥当な処か。
等と想像を膨らませる私をよそに、マダムは卒業袴の孫娘と歩きながら話をし始めた。
幸いな事に結構な具合でマダムの声が大きかったので、私は聴き耳を立てずに済んだ。
マダムの曰く。
「お花見が禁止だからって、何もこんな処で騒がなくてもいいのにねぇ。
お面なんか着けてさぁ、あのお嬢さん貴女と同じくらいの歳じゃないの」
卒業袴の女子が優しく応じる。
「あぁ、でも、あれ何か撮影してるんでしょ」
頻りに肯くマダム。
「ふーん、そうなの。
それにしても変てこなお面だこと。
あんなの着けたからって、コロナに効く訳でもないんでしょ?」
と、以降の会話を何時もなら要約するのだが、余りに素晴らしい遣り取りの為、出来るだけ漏らさず記憶の限り二人の会話を披露する。
マスク越しにも目許で微笑む卒業袴の女子。
「うん。それは効かないでしょうね」
反してマダムはマスク越しにも厳しい目許。
「貴女もさぁ、そんな口元だけ浮かせたような半端なのじゃなくて、もっと鼻と口元にピタッと密着するマスクをなさい。
お婆ちゃん薬局で新しいの買ったげるから。
怖いのよコロナは」
やはり卒業袴の女子の目許は微笑んでいる。
「あぁ、これはさぁ、グロスが付かないように作られてるの。
マスクの性能には関係無いから」
益々厳しくなるマダムの目許。
「何ですって!
そんなものから作ってるの、そのマスク。
何てはしたない事するの!」
怪訝そうに応じる卒業袴の女子。
「はい?
何ではしたないの?」
マスク越しにも到って真剣な様子のマダム。
「だってそれズロースで作られてるんでしょ。
駄目よそんなの。
節約するにしても、ズロースなんかでマスク作る人がありますか!」
直後大爆笑した卒業袴の女子が、ひと心地付いてから応じた。
「お婆ちゃんズロースじゃなくって、グロス。
これって口許をわざと浮かせて、リップグロスが付かないようにしてあるの、ほら」、と。
マスクを外して見せた卒業袴の女子の口許を見て漸く悟ったのか、マダムもその直後立ち止まって大爆笑した。
私はマダムへの礼儀として、聴かなかったフリでその場を遣り過ごした。
如何であろうか。
今日は会話そのままで充分素晴らしかった事を、皆様方ご理解戴けたかと思う。
と、ここで一つ。
お孫さんはマダムと会話する際「グロス」ではなく「口紅」、と、言って戴くよう、またマダムはお孫さんが「グロス」と言った際、仮に貴女が「ズロース」と聴こえたとしても、それは下着では無い事を恐惶謹言させて戴く。
かしこ。
カメラが被写体の女性を捉えていたのだが、その女性がハッカー集団アノニマスのシンボルとして有名な、ガイフォークスマスクを着けていたのである。
あの口髭男を模したコミカルな仮面である。
と、調度私の直ぐ前を正装した70代〜80代と思しきマダムと、彼女に寄り添う袴を履いた20代前半と思しき女子が歩いていた。
季節柄女子大学生の卒業式帰りなのだろう。
本来なら謝恩会が執り行なわる処だが、蜜を誘発する集団での会合は見送りとなる。
それが故に家族だけで食事会を開催。
その後家族だけで写真撮影でもしたか。
で、マダムを一人で帰らしてはならぬ、と、
卒業袴のお孫さんが駅迄マダムをお見送り中、と、そう考えるのが妥当な処か。
等と想像を膨らませる私をよそに、マダムは卒業袴の孫娘と歩きながら話をし始めた。
幸いな事に結構な具合でマダムの声が大きかったので、私は聴き耳を立てずに済んだ。
マダムの曰く。
「お花見が禁止だからって、何もこんな処で騒がなくてもいいのにねぇ。
お面なんか着けてさぁ、あのお嬢さん貴女と同じくらいの歳じゃないの」
卒業袴の女子が優しく応じる。
「あぁ、でも、あれ何か撮影してるんでしょ」
頻りに肯くマダム。
「ふーん、そうなの。
それにしても変てこなお面だこと。
あんなの着けたからって、コロナに効く訳でもないんでしょ?」
と、以降の会話を何時もなら要約するのだが、余りに素晴らしい遣り取りの為、出来るだけ漏らさず記憶の限り二人の会話を披露する。
マスク越しにも目許で微笑む卒業袴の女子。
「うん。それは効かないでしょうね」
反してマダムはマスク越しにも厳しい目許。
「貴女もさぁ、そんな口元だけ浮かせたような半端なのじゃなくて、もっと鼻と口元にピタッと密着するマスクをなさい。
お婆ちゃん薬局で新しいの買ったげるから。
怖いのよコロナは」
やはり卒業袴の女子の目許は微笑んでいる。
「あぁ、これはさぁ、グロスが付かないように作られてるの。
マスクの性能には関係無いから」
益々厳しくなるマダムの目許。
「何ですって!
そんなものから作ってるの、そのマスク。
何てはしたない事するの!」
怪訝そうに応じる卒業袴の女子。
「はい?
何ではしたないの?」
マスク越しにも到って真剣な様子のマダム。
「だってそれズロースで作られてるんでしょ。
駄目よそんなの。
節約するにしても、ズロースなんかでマスク作る人がありますか!」
直後大爆笑した卒業袴の女子が、ひと心地付いてから応じた。
「お婆ちゃんズロースじゃなくって、グロス。
これって口許をわざと浮かせて、リップグロスが付かないようにしてあるの、ほら」、と。
マスクを外して見せた卒業袴の女子の口許を見て漸く悟ったのか、マダムもその直後立ち止まって大爆笑した。
私はマダムへの礼儀として、聴かなかったフリでその場を遣り過ごした。
如何であろうか。
今日は会話そのままで充分素晴らしかった事を、皆様方ご理解戴けたかと思う。
と、ここで一つ。
お孫さんはマダムと会話する際「グロス」ではなく「口紅」、と、言って戴くよう、またマダムはお孫さんが「グロス」と言った際、仮に貴女が「ズロース」と聴こえたとしても、それは下着では無い事を恐惶謹言させて戴く。
かしこ。