第108話 スキンヘッドに滑りもせずに眼鏡を乗っけていた彼こと、誰かに似ている彼

文字数 1,682文字

 一昨日の夜最終発売日の宝くじが売り切れていて買いそびれた私は、予算を消化すべく久し振りにスクラッチくじを買おうと、新宿の街に出向いた昨日の昼少し過ぎ。
 日中は気温が20度以上に上昇していたせいか、街を往く男性がジャケットを脱いで手に引っ掛けて歩いている姿が目立った。
 そんなに暑がりでは無い私は何とか脱がずに過ごせたのだが、幾人もの男性がそうして脱いだジャケットを手にしていたのである。
 私はそんな熱気に満ち満ちた新宿駅周辺から歌舞伎町を抜けて、今日は熱帯魚屋にも行く用事があったので新大久保迄行こうとしていた。

 すると緊急事態宣言下ではあるが、飲食店でも酒類を出さなければ午後8時迄営業出来るとあって、開店していると思しきホストクラブがそこかしこに在った。
 中には店舗名の後にカフェと銘打ったりして、表向きは酒類を提供していない体で昼間に営業している店も見掛けられた。
 ニュースでも言っていたのだが、今回の緊急事態宣言では飲食店に拠る酒類の提供を控えろとは言っているが、客の持ち込みに関しては触れられていないとして、客の酒類の持ち込みを容認している店舗も少なくないとか。
 とは言えそれは屁理屈であって、都としてはそれも止めるよう訴えているとの事。
 然るにその際真っ昼間から酔っ払っている女性を歌舞伎町で何人か見掛けたと言う事は、つまり彼女達は何等かの方法で飲酒をしているのである。
 悲しいかなそれが、今回の緊急事態宣言下の偽らざる歌舞伎町の現実だ。
 ホスト君達も食わなければ死んでしまうし、
またその事の是非を問う事程難しい話は無い。
 そうして柄にも無く哲学的な私であった。

 と、そんな事を考えながら歌舞伎町の中を歩いていると、ジャケットを手にしたスーツの男性が向こうから歩いて来たのである。
 しかしジャケットを手にしている事よりも何よりも、スキンヘッドの目立つ彼。
 そしてスキンヘッドよりも何よりも、そのスキンヘッドに滑りもせずに乗っかっている眼鏡が、絶妙に不思議な彼。
 彼はつるっ禿げの頭にどうやって眼鏡を留めているのだろうか。
 そう言えば以前知人が眼鏡ストッパーなる便利グッズを使っていた。
 やはり彼も眼鏡ストッパーを使って、つるっ禿げの頭に眼鏡を固定させているのだろうか。
 その辺りは謎だ。

 しかしマスク越しで顔は確認出来ないのだが、それにしても彼は誰かに似ている。
 誰だっけ、それって、と、彼が通り過ぎてからも思い出せない私であった。
 するとほんの少し歩いた処に間口の広い商業ビルが在って、その奥に設えられた階段に座り込んでいる女性2人組が居たのである。
 かなり酔っ払っている様子。
 彼女達は以下のような会話をしていた。

 キャップを被った20代前半と思しきギャルの曰く。
「今のってさぁ、一緒にさぁ~、大阪のU○J行ったっしょ、ウチら」

 すると連れのこれまた20代前半と思しき、ブロンドのショートヘアのギャルが応じた。
「あぁ~、あれっしょ、ミニオ○ズのボブ」

 直後キャップを被ったギャルが、頻りに肯きながら笑い声を上げながら応じた。
「そぉ~、それ、それよ~。
 まんま目玉のミニオ○ズ~。
 あのオジサン大阪から来たんじゃね」
 
 直後大爆笑した2人。
 私も彼女達の前を通り過ぎながら、胸中で呟いた。
「それそれ、さっきのスキンヘッドの彼は、ミニオ○ズのボブに似てたんだょ」、と。

 酔っ払ってはいるが、記憶力や判断力は喪失していないらしい。
 顎マスクだし、酒飲んでるわだし、関心は出来ないが、まぁ、他の人とのソーシャルディスタンスは取れているし、昼間だから良いか。
 否、道徳的には、ホスト街で昼間っから酔っ払うのは最悪なんだけどなぁ。
 と、安心と心配が綯交ぜになった私。

 ここで一つ。
 兎にも角にもミニオ○ズのボブに気付かせてくれたギャル達には感謝なのだが、一体あのスキンヘッドに滑りもせずに眼鏡を乗っけていた彼は何者なのだろう、と、未だに彼の事が気になってなって仕方の無い私だが、一先ず彼がホストでない事だけは、私が自信を持って恐惶謹言させて戴こう。
 かしこ。

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