第51話 二兎を追う男子こと、一兎をも得られなかった男子?
文字数 1,969文字
私は以前よりカップル同士が擦れ違う際の視線について、一定の法則が有ると思って来た。
擦れ違いざま男女共他のカップルのパートナーを、チラと一瞥しているカップル達が結構居るのだが、そう言った行動が見られると早晩そのカップルは終焉を迎える、と、言う法則だ。
つまりカップルなのに男性の方が他の女性の方を、女性の方が他の男性の方を意識している場合、そのカップルは終わりに近いと言う事。
まぁ、パートナーに飽きてしまったのか、それ程愛し合っていないのか、とかく比べたがるのは人の世の常である。
例外は女性が他のカップルの女性を見て、 「あの娘可愛い」、とか、「あの娘綺麗」、とか言う場合で、その場合はこの法則が当て嵌らないので予めお断りしておく。
それとこんな時期にも拘らずピタと密着し、濃厚接触と言わざるを得ない親密な二人も別。
他人の事等全く眼に入らない程、互いに見詰め合っているのだから。
何ともうらやましい限りではある。
先日の事そんな持論を抱く私が新宿でカップルの視線を追っていて、やはり自身の立てた法則は正しいのだ、と、再確認した。
その日は振込手続きの為地下街に設置されたATMに並んでいたのだが、もの凄い込みようだった。
手持ち無沙汰にカップルが居たので観察していた処、カップル同士と言う訳では無いのだが、私の注視したカップルの男性の方がチラと向こうからやって来る女性を一瞥した途端、一緒に居た女性の手を引いて、突然直ぐ傍に在る本屋さんに入って行ったのである。
カップルの年齢は20代半ばと言った処か。
男性があんな眼で他の女性を視る場合、最早一緒に居てもあのカップルは終わっている。
と、私が思った矢先の事だ。
先程のカップルの男性が一瞥した方の女性も、スタスタと早足でその本屋さんへと入って行くではないか。
ん?
何か様子が変だぞ。
と、思った直後、カップルの男性が一瞥した方の女性、つまりカップルじゃない方の女性に突き飛ばされるようにして、本屋から飛び出て来たのだ。
うーん。
ひょっとして、これ、修羅場って言うやつ?
所謂二股なのか。
と、思っていると、当初はカップルだった方の女性も出て来て、3人で押し問答となった。
二人の女性が男性に対して、「これ誰なのよ!」、とか、或いは「これって誰の事よ!」とか、「説明しなさいよ!」とか、色々と大声で罵倒していたのだが、良い処で私のATMの順番が廻って来たので仕方無く振込手続きを。
手続きを済ませて3人の方を見ると、女性2人が涙でメイクは剥げ落ちているわ、泣き腫したような顔になってるわで、修羅場そのもの。
無論その3人は当初マスクをしていたのだが、何時の間にやら皆マスクが取れていた。
暫く柱の陰で様子を窺っていたのだが、やがて初めは一緒に居なかった方の女性が去り、もう1人カップルだった方の女性も去った。
1人残された男性が愈々去ろうとした時に、彼の足元にレディースのハンカチとハンドタオルが有ったのである。
どちらがどちらの女性のものかは分からないが、恐らく揉み合った時に落としのだろう。
二人の女性が去って間もなく男性も去ろうとしたのだが、女性のハンカチとハンドタオルはそこに打ち捨てられたままだ。
誰もが知らぬふりを決め込んでいる事は言う迄も無い。
男性を庇う訳ではないのだが、何となく同じ男として放ってはおけなかった。
そこで私はそのハンカチとハンドタオルを拾って男性に駆け寄り、肩をポンポンと叩いた。
「忘れものですよ」、と。
男性の曰く。
「あっ、自分のじゃないんで」、と。
私は女性のハンカチを掴んだ手を差し出し、
「それでも今は、取り敢えず」、と、諭す声音で押し被せた。
その後ややあってから、「はい」、と、だけ返した男性は、女性のハンカチとハンドタオルを手にして去って行った。
あぁ、ドラマだったなぁ、と、私。
しかしその後どうしても確認したい事があったのである。
まぁ、確認しようにも、名前さえ知らない男性なのだから確認の仕様がないのだが、あの後諺通りに、「二兎を追う者は一兎をも得ず」、と、なってしまったのだろうか。
それより何より、あの女性達にハンカチとハンドタオルを返したのだろうか。
その事が気になって仕方が無いのだ。
何となればもし返したとして、それぞれ持ち主を間違って返していたら、それはもう再び修羅場を迎える事は間違い無いからである。
自身の修羅場は迎えたく無いのが人と言うものだが、人の修羅場程興味深いものはない。
うーん。
何だかんで俗っぽい私。
とは言えその日は、「二兎を追う者は一兎をも得ず」、の理を実感した一日となった。
また私だけでなく男性各位にはくれぐれもその理をお忘れ無きように、と、恐惶謹言させて戴く事とする。
かしこ。
擦れ違いざま男女共他のカップルのパートナーを、チラと一瞥しているカップル達が結構居るのだが、そう言った行動が見られると早晩そのカップルは終焉を迎える、と、言う法則だ。
つまりカップルなのに男性の方が他の女性の方を、女性の方が他の男性の方を意識している場合、そのカップルは終わりに近いと言う事。
まぁ、パートナーに飽きてしまったのか、それ程愛し合っていないのか、とかく比べたがるのは人の世の常である。
例外は女性が他のカップルの女性を見て、 「あの娘可愛い」、とか、「あの娘綺麗」、とか言う場合で、その場合はこの法則が当て嵌らないので予めお断りしておく。
それとこんな時期にも拘らずピタと密着し、濃厚接触と言わざるを得ない親密な二人も別。
他人の事等全く眼に入らない程、互いに見詰め合っているのだから。
何ともうらやましい限りではある。
先日の事そんな持論を抱く私が新宿でカップルの視線を追っていて、やはり自身の立てた法則は正しいのだ、と、再確認した。
その日は振込手続きの為地下街に設置されたATMに並んでいたのだが、もの凄い込みようだった。
手持ち無沙汰にカップルが居たので観察していた処、カップル同士と言う訳では無いのだが、私の注視したカップルの男性の方がチラと向こうからやって来る女性を一瞥した途端、一緒に居た女性の手を引いて、突然直ぐ傍に在る本屋さんに入って行ったのである。
カップルの年齢は20代半ばと言った処か。
男性があんな眼で他の女性を視る場合、最早一緒に居てもあのカップルは終わっている。
と、私が思った矢先の事だ。
先程のカップルの男性が一瞥した方の女性も、スタスタと早足でその本屋さんへと入って行くではないか。
ん?
何か様子が変だぞ。
と、思った直後、カップルの男性が一瞥した方の女性、つまりカップルじゃない方の女性に突き飛ばされるようにして、本屋から飛び出て来たのだ。
うーん。
ひょっとして、これ、修羅場って言うやつ?
所謂二股なのか。
と、思っていると、当初はカップルだった方の女性も出て来て、3人で押し問答となった。
二人の女性が男性に対して、「これ誰なのよ!」、とか、或いは「これって誰の事よ!」とか、「説明しなさいよ!」とか、色々と大声で罵倒していたのだが、良い処で私のATMの順番が廻って来たので仕方無く振込手続きを。
手続きを済ませて3人の方を見ると、女性2人が涙でメイクは剥げ落ちているわ、泣き腫したような顔になってるわで、修羅場そのもの。
無論その3人は当初マスクをしていたのだが、何時の間にやら皆マスクが取れていた。
暫く柱の陰で様子を窺っていたのだが、やがて初めは一緒に居なかった方の女性が去り、もう1人カップルだった方の女性も去った。
1人残された男性が愈々去ろうとした時に、彼の足元にレディースのハンカチとハンドタオルが有ったのである。
どちらがどちらの女性のものかは分からないが、恐らく揉み合った時に落としのだろう。
二人の女性が去って間もなく男性も去ろうとしたのだが、女性のハンカチとハンドタオルはそこに打ち捨てられたままだ。
誰もが知らぬふりを決め込んでいる事は言う迄も無い。
男性を庇う訳ではないのだが、何となく同じ男として放ってはおけなかった。
そこで私はそのハンカチとハンドタオルを拾って男性に駆け寄り、肩をポンポンと叩いた。
「忘れものですよ」、と。
男性の曰く。
「あっ、自分のじゃないんで」、と。
私は女性のハンカチを掴んだ手を差し出し、
「それでも今は、取り敢えず」、と、諭す声音で押し被せた。
その後ややあってから、「はい」、と、だけ返した男性は、女性のハンカチとハンドタオルを手にして去って行った。
あぁ、ドラマだったなぁ、と、私。
しかしその後どうしても確認したい事があったのである。
まぁ、確認しようにも、名前さえ知らない男性なのだから確認の仕様がないのだが、あの後諺通りに、「二兎を追う者は一兎をも得ず」、と、なってしまったのだろうか。
それより何より、あの女性達にハンカチとハンドタオルを返したのだろうか。
その事が気になって仕方が無いのだ。
何となればもし返したとして、それぞれ持ち主を間違って返していたら、それはもう再び修羅場を迎える事は間違い無いからである。
自身の修羅場は迎えたく無いのが人と言うものだが、人の修羅場程興味深いものはない。
うーん。
何だかんで俗っぽい私。
とは言えその日は、「二兎を追う者は一兎をも得ず」、の理を実感した一日となった。
また私だけでなく男性各位にはくれぐれもその理をお忘れ無きように、と、恐惶謹言させて戴く事とする。
かしこ。