第44話 こそ泥ランナーこと、青髭のランナー

文字数 727文字

 今日の事なのだが自宅を出て食糧を買い出しに行く往路での事、男性が背後から物凄い勢いで走って来る気配を感じた。
 振り返ればその男性が、何と二人の警官を連れているではないか。
 追い掛ける警官達も凄い勢いなのだ。
 刹那何の事件なのだろう。
 と、私は逮捕現場に出会すかも知れない興奮と、それとは逆の巻き込まれる事への畏怖が綯交ぜになり、その場に立ち竦んで唯々その様子に見入った。

 見ればその男性はこのコロナ禍にマスクもしておらず、口元が丸出しになっている。
 しかも口の周りをぐるっと青髭が取り囲んでおり、その「こそ泥」感たるや半端ではない。
 正に「こそ泥」を追う警官達の構図。
 固唾を飲む私。
 やがて私を追い越したその「こそ泥」男性に警官達が追い付いた直後、『あっ、警官達がこそ泥に飛び掛かるぞ』、と、思ったその刹那。
 何と警官達はその「こそ泥」男性を、全く無視して追い越して行ったのである。
 ん?
 私が、「ゲッ、マジで」、と、思った事は言う迄も無い。
 要するに「こそ泥」と私が思っていた男性は単なる青髭のランナーだったのであり、たまたま別件で走っていた警官達が、彼を追い掛けているように見えただけなのだ。
 と、私が溜息を一つ吐いた時、その青髭のランナーがターンしてこっちへ戻って来ると、擦れ違う私を置き去りにして何処かへと走り去って行った。
 うーん。
 思い込みと言うものはつくづく厄介だ。
 私の中では「青髭」=「こそ泥」、と、言う固定観念が定着しており、今回の椿事が出来してしまったのである。

 その後帰宅した私が、髭を剃り直した事は言う迄も無い。
 皆様方も、「青髭」=「こそ泥」、と、言う固定観念にはくれぐれもご注意なさる事を、恐惶謹言させて戴く。
 かしこ。
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