第120話  関東人のマダムと関西人の孫娘こと、夜食はうどんのマダムと孫娘

文字数 1,433文字

 昨日の事洗剤を切らせてしまい、急遽自宅付近に在るスーパーへ。
 ついでに肉でも買うかと肉コーナーの前でステーキ肉を物色していると、ショッピングカートを引いたマダムと孫娘の2人に出会した。
 孫娘と言っても女子大生だろうか、10代後半~20代前半の女子である。
 と、マダムが孫娘女子に、「さっきメジナのいいのがあったから、お刺身の売場からメジナのお刺身取って来て」、と、指示を出した。
 孫娘女子がマスク越しにもちっちゃ可愛い黒髪の女子だったので、ついつい聴き耳を立ててしまったのである。 

 そして私の隣りですき焼き肉を物色しているマダムの許へ、間も無く戻って来た孫娘女子。
「お婆ちゃんこれでええのん?
 尾の身のベーコンしかなかったんやけど」

 怪訝そうに小首を傾げるマダム
「え? どうしてそんなの取って来たんだい。
 クジラじゃなくてメジナだよ、メジナ」

 尚も関西弁で要領を得ない孫娘女子。
「ん、何それ、クジラやないのん?」

 その際私は或る事に気付いたのである。
 そしてそれを伝えてみる事にした。
「あの~、多分勘違いされてますね。 
 メジナって、関西で言うグレです」

 私の言葉に瞠目を禁じ得ない孫娘女子。
「えっ、そうなんや!
 こっちってグレの事メジナって言うんや。
 全然知らんかった。
 ありがとうございます」

 その後孫娘女子が今年東京の女子大に入学し、リモートの授業から対面の授業の割合が増えたので、愈々このゴールデンウィークからマダムとこちらで一緒に暮らすようになった事、また孫娘女子が大阪生まれの大阪育ちな事等、一通り2人についてのガイダンスを受けた。
 代わりに私が学生時代関西に居た事を述べた後で、頃合いを見て立ち去ろうとしたその時である。

 マダムが孫娘女子に言ったのだ。
「じゃあ、お刺身を止めて、すき焼きにでもしようかね。
 割り下を切らしてるから、あんたは割り下を取って来ておくれ」

 予測通り孫娘女子の曰く。
「割り下って?」

 直後私は孫娘女子に関西ではすき焼きの味付けを、「砂糖と醤油」、或いは「ザラメと醤油」でするのだが、関東では「割り下」と言うすき焼き専用のタレで味付ける事を説明。
 また以前私が関西の友人と一緒にすき焼きをした際、甘党の関西人の友人が砂糖を、辛党の関東人の私が醤油を入れ過ぎて、すき焼きのつもりが「佃煮」になってしまったエピソードを披露すると、隣りで話を聴いていたマダムと2人で大爆笑してくれた。
 結局はステーキにする事を決めたマダムと孫娘の2人であった。
 と、私が愈々その場を立ち去ろうとした時。
 マダムが孫娘女子に言ったのである。

「じゃあ、お婆ちゃんがお夜食にうどんを作ったげるよ。
 関西じゃ、蕎麦よりうどんだろ」、と。

 私はその時或る事が脳裏を過ったが、それを言うのは止める事にした。
 何となれば孫娘女子には、早目に関東で暮らす事に慣れて欲しかったからである。

 と、ここで一つ。
 ご存知の方もいらっしゃるかと思うが、うどんの場合関東は真っ黒な醤油出汁で、関西は無色透明な鰹出汁であり、大阪出身の孫娘女子に取ってマダムの作る醤油出汁のうどんに、カルチャーショックを受けるだろう事は想像に難く無い、と、恐惶謹言させて戴く。
 その逆で関東人の私が生まれて初めて関西で鰹出汁のうどんを食べた時、余りにも透明過ぎるスープなので味付けはお好みでするものと勘違いし、醤油をドバッと入れて周囲の眼を集めてしまった事も、重ねて恐惶謹言させて戴く。
 かしこ。
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