第147話
文字数 1,057文字
「黒木くん、今日、塾でしょ?」
グラウンドを眺めながら、山田さんが尋ねた。
「うん、でもまだ時間はあるんだけど」
「塾の日って早く帰ってなかったっけ?」そう言って山田さんが顔を覗きこんできた。
鼓動が一層強くなるのを感じながら、龍太は答えた。
「宿題とかやってない時は慌てて帰ってるけど、今日は平気」
「ふーん。黒木君でも宿題やってない日があるんだね」
「塾はやっぱり難しいときとか、多いときがあるんだよ」
「それって、学校は楽勝って言ってるの?」
ちょっと意地悪そうな表情もかわいいな、と見とれている自分に気付き恥ずかしくなってきた。
「そんなつもりはないけど、まあ、すぐ終わるのは確か」
ちょっと嫌味な言い方かもしれないが、正直な答えだった。算数などは出された時にささっと解けてしまうのが実際だった。
「そっか、やっぱりすごいんだなあ。追いつけるかな、私」
龍太は山田さんの顔に視線を移して、言った。
「できるよ。でも、ひとつ言えるのは、五年生の教科書、特に算数は冬期講習に入る前に最後までやったほうがいいかな」
「ああ、やっぱりそうだよね。うん」
龍太は汗ばんだ掌を親指でなぞってから思い切って言った。
「もし、やってて困ったら、僕に聞いてくれればいいよ。た、多分、教えてあげられると思うよ」
山田さんは目を大きく開けて、
「本当? 家でやろうと思っても、分からなかったら嫌だな、って思って始められなかったんだよね。嬉しい」
「ああ。じゃあ僕、そろそろ行かないと」
山田さんは教室にちょっと目を移してから「わかった」と答えた。
階段を下りたところにある用具入れの陰に、吾郎と洋一郎が隠れていた。吾郎が龍太の頭を軽く叩いて「龍太、なかなかお熱いご様子だったな」と言って来た。近くに山田さんがいるかもしれないので、ここで話をする訳にはいかないと龍太は即座に思った。
「まあ、でももう塾の時間になるよ。吾郎も一回帰らないと」
そう言って洋一郎に目を向けた。塾に行っていない洋一郎には山田さんとの話を伝えることができない、という意味を込めていた。洋一郎にはそれが通じたようで特に突っ込まれたりはしなかったが、吾郎の方がしつこく話を続けたがっていた。
「で、どんな話をしていたんだよ?」
校舎の昇降口から校門までは黙って歩けば三十秒ほどで着いてしまう。その間、何度か同じように質問してくる吾郎に少し嫌気がした。でもこの場で答えてしまうと、山田さんの気持ちを踏みにじることになるように思った。なので「ああ」とか「まあ」とか言いながら校門を通り抜けた。
グラウンドを眺めながら、山田さんが尋ねた。
「うん、でもまだ時間はあるんだけど」
「塾の日って早く帰ってなかったっけ?」そう言って山田さんが顔を覗きこんできた。
鼓動が一層強くなるのを感じながら、龍太は答えた。
「宿題とかやってない時は慌てて帰ってるけど、今日は平気」
「ふーん。黒木君でも宿題やってない日があるんだね」
「塾はやっぱり難しいときとか、多いときがあるんだよ」
「それって、学校は楽勝って言ってるの?」
ちょっと意地悪そうな表情もかわいいな、と見とれている自分に気付き恥ずかしくなってきた。
「そんなつもりはないけど、まあ、すぐ終わるのは確か」
ちょっと嫌味な言い方かもしれないが、正直な答えだった。算数などは出された時にささっと解けてしまうのが実際だった。
「そっか、やっぱりすごいんだなあ。追いつけるかな、私」
龍太は山田さんの顔に視線を移して、言った。
「できるよ。でも、ひとつ言えるのは、五年生の教科書、特に算数は冬期講習に入る前に最後までやったほうがいいかな」
「ああ、やっぱりそうだよね。うん」
龍太は汗ばんだ掌を親指でなぞってから思い切って言った。
「もし、やってて困ったら、僕に聞いてくれればいいよ。た、多分、教えてあげられると思うよ」
山田さんは目を大きく開けて、
「本当? 家でやろうと思っても、分からなかったら嫌だな、って思って始められなかったんだよね。嬉しい」
「ああ。じゃあ僕、そろそろ行かないと」
山田さんは教室にちょっと目を移してから「わかった」と答えた。
階段を下りたところにある用具入れの陰に、吾郎と洋一郎が隠れていた。吾郎が龍太の頭を軽く叩いて「龍太、なかなかお熱いご様子だったな」と言って来た。近くに山田さんがいるかもしれないので、ここで話をする訳にはいかないと龍太は即座に思った。
「まあ、でももう塾の時間になるよ。吾郎も一回帰らないと」
そう言って洋一郎に目を向けた。塾に行っていない洋一郎には山田さんとの話を伝えることができない、という意味を込めていた。洋一郎にはそれが通じたようで特に突っ込まれたりはしなかったが、吾郎の方がしつこく話を続けたがっていた。
「で、どんな話をしていたんだよ?」
校舎の昇降口から校門までは黙って歩けば三十秒ほどで着いてしまう。その間、何度か同じように質問してくる吾郎に少し嫌気がした。でもこの場で答えてしまうと、山田さんの気持ちを踏みにじることになるように思った。なので「ああ」とか「まあ」とか言いながら校門を通り抜けた。