第105話

文字数 1,054文字

 龍太の目にまず飛び込んできたのは、篠山さんだった。まっすぐこっちに向かって来る。彼女が座ったのは、龍太の前だった。つまり昭の隣だ。優等生で密かに勉強のライバルだと見なしている篠山さんが同じ班になるのは、多分いい刺激になるんだろう。そう思いながらも龍太の視線は当然、山田さんを追っていた。正面の教卓、そこは泰史の席だと思われる空席だが、その傍に井崎さんと二人で立っている。男子を見ているのだろうか。やがて井崎さんは右、山田さんは左を向いた。そして山田さんが龍太に近付いてきた。まさか、隣は! と期待している自分を悟られないように、龍太は敢えて周りを見る。篠山さんと昭は全く会話をしていない。その向こうに吾郎の背中が見える。隣は小島さんのようだ。前回龍太と同じ班だった小島さんは少女漫画大好きな暗めの子だ。吾郎なら誰とでもうまくやるだろう。そういえば、と鈴原さんを探す。窓際の一番前。担任の先生が使う机の前に彼女はいて、既に周りの子と笑いあっている。隣の男子は高橋慶人だ。龍太の後ろに座る高橋航平とは親戚でもなんでもない。昔は泰史の手先みたいな存在だったが、今は昭にからかわれることが多い。あいつ、大丈夫かな、と心配した。
「黒木君、となり、よろしく」と声がしたのはそう思った時だった。この声は残念ながら山田さんではない。変に思われないように、声が聞こえて来た右方向に顔を向けた。真面目が取り柄の河田さんだった。この前吾郎と、やはり真面目に掃除をしていた河田さん。「よろしく」と返事をしながら、この班で昭が浮かないようにするのが自分の役割かな、とぼんやり思った。

 改めて山田さんを目だけで探すが、見当たらない。あれっ? と思ったとき、左から声がかかる。
「黒木君、お隣だね」
 山田さんだ。机は接さない、通路を挟んだ左隣には山田さんが座っていた。ちょっと頬が熱くなるのを自覚しながら、ぶっきらぼうに「うん」とだけ答えた。彼女の隣は清水。これもそう冴えている存在ではない。そんなことを考えている自分は、河田さんや篠山さんにどう見られているのかが気になる。そして昭に余計なことを言われないようにしたい。

 その後の授業になっても、龍太の脈はなかなか落ち着かなかった。給食になって班ごとに机を並び替えた時、龍太の視界から山田さんが消えた。が、龍太と山田さんの背中が向かい合っている。隣の島の話し声に耳を傾けてしまう。そのせいなのか、龍太の班は話が盛り上がらない。いや、篠山さん、河田さんと昭では、何を話していいか分からない。
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