第10話

文字数 993文字

 塾での吾郎は、学校での出来事を感じさせない態度だった。休み時間に龍太は声をかけた。
「大変だったね、学校」
「え、ああ。でも先生が少し大げさにやり過ぎたよ。あれじゃ、また泰史たちが何かしてくる」
「そうかもしれないけど、多分よかったと思うよ」
「うーん、まあ、割合の問題はもう間違えないな」
 二人は笑った。

 次の朝、吾郎も泰史もいつも通り登校してきた。しかし孝弘が来ない。孝弘がいれば、泰史の目を気にせずに吾郎と話ができる、と考えていた龍太は不安になった。
 二時間目の後、その不安を紛らわせるかのように、社会の教科書をパラパラめくった。ふと前をみると、吾郎が泰史に話しかけている姿が目に入った。泰史も驚いた様子だったが、避けたり大きな声を出したりせずに話を続けているようだった。会話の内容は聞こえてこないが、この二か月が嘘のような光景だった。そして龍太は、あそこに入るべきではない、と感じた。だから教科書にある日本列島の地形図を、上の空で眺め続けた。

 その翌日、孝弘が登校してきた。昨日は熱が出たのだ、とのことだった。孝弘はいつもと違い泰史のそばには行かず、龍太の近くに居続けた。泰史は、今日も吾郎と一緒にいた。変な流れだと思ったので、龍太は泰史たちに近づいてみた。孝弘は自分の席に戻ってしまった。泰史と吾郎は、警察ドラマの話をしているようだった。であれば龍太も会話に入ることができる。孝弘に申し訳ない思いもあったが、三人で話すことができた。でも次の休み時間には孝弘と過ごした。
 孝弘との話題は、主にプロ野球だった。龍太の父が大の巨仁ファンで、その影響を受けて龍太も野球中継はよく見ていた。孝弘は東京の子なのに横浜のチームである大漁が好きなのだという。
 大漁の連敗について孝弘と話をしながら、龍太は泰史と孝弘との関係を考えた。何があったんだろう? 泰史が孝弘のことを怒ったのか? 孝弘が敢えて避けているのか? そのどちらかだと思った。でも今回は泰史からも孝弘からも、そして他の誰からも、無視しようとか、攻撃しようという誘いは受けなかった。また既に誰かがそうしているようにも見えなかった。孝弘から龍太が話しかけられても、泰史がそれを邪魔することはない。だから自分は関係なく、単純に孝弘と泰史の問題に見えた。一昨日、きっかけを作ったのは龍太かもしれないのに、問題は孝弘と泰史の間に生じてしまった。
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