第28話
文字数 1,030文字
塾の新学期もこの日からスタートだ。素早く帰宅したので塾の時間までには余裕があり、台所に置いてあったおにぎりを頬張る。やっぱり明太子は美味しい。お盆には宮崎へ行ったが、夏期講習もあるので三日しか滞在しなかった。楽しみにしていた「おおくら」のチキン南蛮もお預けだった。宮崎空港でお土産にキーホルダーを買った。これは塾仲間の吾郎のためのもの。宮崎県の形をしたキーホルダー。このシリーズは、四十七都道府県全部あるらしい。社会が苦手な吾郎にはちょうどいいような気がした。もう一つは埴輪を元にした可愛い絵柄のついた三色ボールペン。こちらは渡せないかもしれないが、こっそり買っておいた。ボールペンは引き出しに戻して、塾へと向かった。
塾では吾郎と会う。学校ではほとんど話をしなかったが、塾では授業の前後で一緒に過ごすことが多い。夏期講習後はたった二日間だけが塾の休みだった。だから学校と違って気恥ずかしさはなかった。
「なあ、龍太。今日、泰史、やばかったぞ」
話題を振ったのは吾郎の方だった。お土産のキーホルダーはまだ出していない。でもこの話は気になる。今日の帰り、龍太はそそくさと学校の教室を出た。吾郎の席は、洋一郎よりもう二つ窓寄りの前方。三列向こうに昭と孝弘がいる。
「昭が泰史を煽ってさ。泰史のやつ、飛びかかった」
野球チーム内の和を考えていたから、泰史は孝弘をあからさまに攻撃しなかった。一学期に吾郎が教えてくれた裏話だ。泰史は我慢するようなタイプではないと思っていたが、野球チームのことはしっかり考えているのか、とあの時は感心した。それを昭が踏みにじったような格好だ。孝弘は止めなかったのだろうか。
「孝弘は、泰史が殴ってきたから自分もやった、って言っていた」
「吾郎。見ていたんだよね?」
「俺はもちろん見てただけだけど……。先にやったのは確かに泰史」
それも大事だけど、止めたりしなかったのかよ? と聞きたかった。でも、言えなかった。そして龍太の口をついたのは「泰史もついにやられたか」だった。
算数の先生が入ってきたので、話は途切れた。二学期は速さの応用問題からだった。しかし長めの問題文には集中できなかった。そしてキーホルダーは、渡し損ねてしまった。
帰宅後も宿題をこなさなければ追いつけない。だから眠い目を擦って頑張る。しかし、小単元ごとに集中力が途切れ、泰史のことを気にかけてしまう。今夜は無理だと思って、布団に潜った。でもやっぱり、すぐには寝付けなかった。
塾では吾郎と会う。学校ではほとんど話をしなかったが、塾では授業の前後で一緒に過ごすことが多い。夏期講習後はたった二日間だけが塾の休みだった。だから学校と違って気恥ずかしさはなかった。
「なあ、龍太。今日、泰史、やばかったぞ」
話題を振ったのは吾郎の方だった。お土産のキーホルダーはまだ出していない。でもこの話は気になる。今日の帰り、龍太はそそくさと学校の教室を出た。吾郎の席は、洋一郎よりもう二つ窓寄りの前方。三列向こうに昭と孝弘がいる。
「昭が泰史を煽ってさ。泰史のやつ、飛びかかった」
野球チーム内の和を考えていたから、泰史は孝弘をあからさまに攻撃しなかった。一学期に吾郎が教えてくれた裏話だ。泰史は我慢するようなタイプではないと思っていたが、野球チームのことはしっかり考えているのか、とあの時は感心した。それを昭が踏みにじったような格好だ。孝弘は止めなかったのだろうか。
「孝弘は、泰史が殴ってきたから自分もやった、って言っていた」
「吾郎。見ていたんだよね?」
「俺はもちろん見てただけだけど……。先にやったのは確かに泰史」
それも大事だけど、止めたりしなかったのかよ? と聞きたかった。でも、言えなかった。そして龍太の口をついたのは「泰史もついにやられたか」だった。
算数の先生が入ってきたので、話は途切れた。二学期は速さの応用問題からだった。しかし長めの問題文には集中できなかった。そしてキーホルダーは、渡し損ねてしまった。
帰宅後も宿題をこなさなければ追いつけない。だから眠い目を擦って頑張る。しかし、小単元ごとに集中力が途切れ、泰史のことを気にかけてしまう。今夜は無理だと思って、布団に潜った。でもやっぱり、すぐには寝付けなかった。