第32話

文字数 1,141文字

 結局、龍太は生き物係になった。相方は、隣の席の井崎さんだ。鈴原さんとつるんでいる女子で、あまり馴染めない。こうなると、山田さんへの想いがより強いものになっていくことを自覚した。しかし埴輪の三色ボールペンは、ランドセルの内ポケットにしまわれたまま、この日も下校の時間を迎えてしまった。

 塾ではいつものようの吾郎と話をした。話題は当然、係決めのことだ。吾郎が学級委員に立候補したのは、やはり受験に向けた点数稼ぎが目的だった。篠山さんもそうだろう。龍太が林間学校のリーダーをやったのも同じ理由だったので、二人を責めることはできない。でも何となく、吾郎をやましいものに感じてしまう。それでも就任祝いと称して、宮崎県をかたどったキーホルダーを渡した。吾郎は待っていましたとばかりに、カバンの中から包みを取り出した。意外に大きく、その場で開けてみると、「あみだジジイ」のフィギュアだった。「あみだジジイ」は人気のお笑い番組「僕たちひょうきん村」で「播磨家さんま」が演じるキャラクターだ。普段「僕たちひょうきん村」を観ない吾郎がそれを、旅行先の大阪で買ってきてくれたことが嬉しかった。同時に、勉強に絡めてキーホルダーにした自分を恥ずかしく思った。あのボールペンも、ケチくさくなかとか? と不安になる。

 泰史は夏休みを経て、背の順で前から三番目に降格した。声量は相変わらずだが、その声を聞く機会もどんどん減っていった。それでも洋一郎が傍にいることが多かったし、同じ班になる龍太は、依然として悪態をつかれることもあった。でも確実に、目立つ存在ではなくなってしまった。
 逆に昭の勢いは増す一方だった。運動会の練習で一番大きな声を出し、ダンスでは先生にも協力している。これは鈴原さんが一緒なのも大きいだろう。彼女は教師に摺り寄るのがうまい。鈴原さんが味方である以上、昭が再び泰史の下に戻ることはないと思える。

 泰史が大人しくなっていくことに関しては、龍太も含め多くの児が良いことだと思っている。でも、数日おきに靴や道具を隠され、あからさまに悪口を言われることについては、同情されていると思う。犯人グループもほぼ明らかなのに、解決できないのはやはりおかしいと龍太は思った。学級委員の二人は、二学期を何事もなく過ごして点数だけ貰えればいいと思っているようであり、ここは自分が勇気を振り絞るべき場面ではないかと思っていた。

 その週末、仕事が暇になったという理由で龍太の父が塾の迎えに来てくれた。最近は勉強の質問も父にはしなくなったので、話す機会が減っていた。その分、改まった話はしやすい気がした。運転席の父にクラスの状況を伝えてみた。漢字ドリルの件など、具体的なことは言わなかったが、理解してくれたちゃろか?
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