第35話

文字数 1,086文字

「その……。女子の中では、泰史と昭たちはどう思われてるのかな?」
 山田さんは、という風には問えなかった。
「それ、私に聞くの?」
「うん、他に誰に聞いていいか、分からなくて」
 山田さんは少し考える素振りを見せて、続けた。
「そうだね、やっぱり真由美ちゃんがね」
「それって、鈴原さん?」
 小声で聞き返す。龍太も、真由美が鈴原さんを指すことは百も承知だが、わざと慣れない振りをしておいた。
「あの子が、酒井君の味方になっているからね」
 酒井というのは、昭のことだ。やはりあの二人がつるんでいるのか。吾郎と幼馴染の鈴原さんだが、今ではすっかり昭と仲が良い。その証拠に、吾郎は鈴原さんと昭とのことについては何も言っていなかった。で、肝心の山田さんは、どげんじゃろ?
「山田さんは、どうなの?」
「私は、別に泰史くんにそこまで恨みはないし。でも」
 そういえば、泰史はなぜ下の名前で呼ばれている? いや、ここは本題ではないので我慢だ。
「でも?」
「ちょっと話しにくいな」
 ()らされると知りたくなる。しかし、だんだん時間がなくなっていく。
「こっちから聞いておいてごめん。でも、塾の時間が……」
 山田さんから、少し不満げな瞳で見つめられ、心が痛む。
「じゃあ、分かった。黒木君は、やっぱりあのいじめはおかしいと思うよね。だったら、今日、手紙に書いて、明日黒木君に渡すよ。絶対に他の人に、女の子も含めてだけど、バレないようにね。あ。遅刻しないように、勉強頑張ってね」

 ちょっと怒られている気もしたが、山田さんから手紙をもらえるというのは望外の喜びだ。テーブルの上に置いた「伊達政宗」を借りる手続きをする余裕もなさそうだから、それを書棚に戻しておいて、と山田さんにお願いし、小走りで教室に戻り、ランドセルを肩に引っ掛けた。

 塾に向かう途中、結局三色ボールペンを渡せていないことに気が付いた。でも明日の手紙に、衝撃の告白が書いてあったらどうすっとやー、とにやけてしまう。龍太からの返事があの埴輪となると、ちょっと釣り合わないかな、とも心配しつつ、悶絶した。
 こんな状態だったが、山田さんの「頑張ってね」を思い出し、むしろ集中力が高まった。計算問題のスピードも増していた。当然満点だ。帰り際に鈴原さんのことを吾郎に聞いてみた。最近はあまり話さないから分からないけど、あいつは低学年の頃から泰史を嫌っていた、とのことだった。なのに、泰史の好きな人が鈴原さん。林間学校の時、やはり吾郎もそれに気付き、面白くて仕方がなかったのだという。性格が悪い奴だなと思ったが、気持ちは分かる。同時に、泰史への同情心が増していった。
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