第21話

文字数 1,109文字

 カレーを食べるころには、洋一郎も元気になっているように見えた。泰史は笑いながら洋一郎のことをクソ一郎と呼んでいる。昭はそれに同調しているようだ。洋一郎もニヤニヤしながら呼ばれるがままになっている。吾郎と龍太は乗り切らない態度を示したが、止めることはできない。またすぐ隣で食べている孝弘たちも聞こえないふりをしている。食事中なのに、クソと泰史が連呼しても誰も怒らない。女子たちはどうかな、と見回したが彼女たちも敢えて触れないようだ。これは、差別か? 諦めか? などと思っていたら、山田さんと目が合ってしまった。思わず顔をそむけてしまったが、あっちはどう思ったんやろ? 反応も見られなかった。なんだか気持ちが落ち着かず、カレーの味がよく分からなかった。

 食器を洗い場に持っていき、その後は昨夜と同じようなキャンプファイヤーが用意された。そして先生が花火を配り始めた。バンガロー単位の班ごとに受け取るのだが、受け取りに行ったのは泰史だった。花火は一人五本の割り当てで、どんな種類が当たるかは運に任せられていた。泰史が自ら受け取りに行くことで、龍太たちはもし小ぶりな花火ばかりが当たった場合でも、泰史が文句を言わないよう仕向けていたのだ。
 悪い予想は外れ、大味なジェット花火を引き当てて、得意な表情で泰史が戻ってきた。孝弘に大きな声で自慢している。孝弘は本気で悔しそうだった。それを見ていた龍太には意外に映った。というのも、最近の孝弘はちょっと大人っぽい感じに思っていたから。もしかして、華やかな花火を山田さんに見せようとしてたのか? そんな考えを持ってしまった自分に、龍太は驚いた。あれ? 俺、山田さんのこと好いとっとか?

 先生たちが点火した仕掛け花火も終わり、バンガローに戻る時間となった。孝弘の行動をしょっちゅう見てしまったが、特に山田さんと親密になったような感じはなかった。そこは安心するが、ここからが憂鬱な時間だ。また、好きな人の話になるっちゃろか? 
 吾郎や洋一郎の口から誰の名前が出てくるのかは気になった。もしかして、泰史と吾郎との対決があるかも? と思いながら、自分は山田さんの名前を出そうかと思った。でも、正直に答えるのがいいのかな? とも迷う。

 順番にシャワーを浴び、龍太はバンガローに戻った。洋一郎と昭が先に部屋に戻り、布団にもぐっていた。そして二人で相談しているようだった。
「俺昨日、泰史には堤が好きって言ったんだけど、本当は違うんだよな」
 昭の声だ。龍太が戻ったことに気付いていないようだ。悪いな、俺聞いてるけど、と心の中で詫びながら、二人が潜んでいるつもりの布団のそばで静かに話を聞くことにした。
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