第65話
文字数 1,102文字
昨日、「恐怖の蟹」を借りてしまったので、図書室に用事はない。しかも今日は、五年二組の図書委員がカウンター当番だ。山田さんに確実に会える日なのだが、一方で孝弘が必ず一緒にいる訳だ。龍太としては、あまり見たくない景色である。孝弘にも確認したいことはあるし、山田さんに聞きたいことは山ほどある。忙しくはないにしても、当番の邪魔はしたくない。金曜日なので、塾もある。思い悩んでいたが、結局渡り廊下の終点に来てしまった。
図書室の扉は開いていた。カウンターで山田さんが、低学年の子の手続きをしているようだった。優しい口調でゆっくり喋っているのが聞こえる。このまま帰ろうかとも思ったが、金曜日には必ず図書室にいく、というサインを出しておくのは今後の為にも重要だとも考えた。
一瞬だけでも姿を見せようと意識し、図書室に入った。入口近くには「ツッカケ三人組」などの人気作品が並んでいる。龍太は滅多に読まないが、そこで本を探している振りをした。
えーっと、どうしようかなあ、と声を出したところ、背後から声が聞こえた。
「『ツッカケ心霊学入門』、おススメだよ」
山田さんだ! 龍太は笑みがこぼれないようにゆっくり振り返った。そしてカウンター奥でカードに日付のハンコを押している孝弘を確認する。
「あ、ありがとう」
「黒木君も、こういうの読むんだね」
「たまには、ね」
「ふーん、じゃあ、ちょっと……」と山田さんが奥の書架に目を向けた。これは、奥でお話ししましょう、という意味に違いない。
「杉田君から聞いたんだけど、何か、泰史君のことが分かったの?」
人気の余りない、理科関係の本を収めた棚を背に、山田さんが問いかけて来た。名探偵シャイロック・ハウジーズこと、杉田吾郎。いい仕事をしているが話の方向性が違う。どう切り返すか考えながら、龍太は慎重に話を進める。
「あいつ、昨日土手を歩いていたらしいんだよ」日中、孝弘たちから聞いた情報だ。これを山田さんが知っているのかどうか、まず確かめたかった。
「そうなんだ? 風邪とかじゃないんだね、やっぱり」
「やっぱり?」山田さんが何かを知っているのは間違いない。
「私、プリント届けてるでしょ? 泰史君は出てこないんだけど、家の中で遊んでいたり、隠れていたりしてる風なんだよね」
「へえ? なんで、そう思うの?」
「だってね、居間でおやつをいただいたんだけど、ファミゲーが出しっぱなしなんだもん。お母さんが一人でやったりは、しないでしょう?」
「おやつ?」
「うん。私、泰史君ちのアパートに住んでるから、おばさんも仲良しで」
「えっ、そうなんだ」
「うちんちは一年生の頃あそこに引っ越ししたから、その頃から、ね」
図書室の扉は開いていた。カウンターで山田さんが、低学年の子の手続きをしているようだった。優しい口調でゆっくり喋っているのが聞こえる。このまま帰ろうかとも思ったが、金曜日には必ず図書室にいく、というサインを出しておくのは今後の為にも重要だとも考えた。
一瞬だけでも姿を見せようと意識し、図書室に入った。入口近くには「ツッカケ三人組」などの人気作品が並んでいる。龍太は滅多に読まないが、そこで本を探している振りをした。
えーっと、どうしようかなあ、と声を出したところ、背後から声が聞こえた。
「『ツッカケ心霊学入門』、おススメだよ」
山田さんだ! 龍太は笑みがこぼれないようにゆっくり振り返った。そしてカウンター奥でカードに日付のハンコを押している孝弘を確認する。
「あ、ありがとう」
「黒木君も、こういうの読むんだね」
「たまには、ね」
「ふーん、じゃあ、ちょっと……」と山田さんが奥の書架に目を向けた。これは、奥でお話ししましょう、という意味に違いない。
「杉田君から聞いたんだけど、何か、泰史君のことが分かったの?」
人気の余りない、理科関係の本を収めた棚を背に、山田さんが問いかけて来た。名探偵シャイロック・ハウジーズこと、杉田吾郎。いい仕事をしているが話の方向性が違う。どう切り返すか考えながら、龍太は慎重に話を進める。
「あいつ、昨日土手を歩いていたらしいんだよ」日中、孝弘たちから聞いた情報だ。これを山田さんが知っているのかどうか、まず確かめたかった。
「そうなんだ? 風邪とかじゃないんだね、やっぱり」
「やっぱり?」山田さんが何かを知っているのは間違いない。
「私、プリント届けてるでしょ? 泰史君は出てこないんだけど、家の中で遊んでいたり、隠れていたりしてる風なんだよね」
「へえ? なんで、そう思うの?」
「だってね、居間でおやつをいただいたんだけど、ファミゲーが出しっぱなしなんだもん。お母さんが一人でやったりは、しないでしょう?」
「おやつ?」
「うん。私、泰史君ちのアパートに住んでるから、おばさんも仲良しで」
「えっ、そうなんだ」
「うちんちは一年生の頃あそこに引っ越ししたから、その頃から、ね」