第14話

文字数 1,083文字

 午前中に皆で川をせき止め、広い浅瀬を作った。また調理やキャンプファイヤーのための準備もした。昼食はお弁当が届く。この後のつかみ取りに備えてしっかり食べた。
 午後になり、その浅瀬に大量のイワナが放たれた。三クラスあるので、三回放流する。クラス対抗でつかんだ数を競い合うという企画だった。一組が終わって、合計四十一匹。とらえられなかった十九匹は、業者の人が回収した。次は龍太たち二組だ。午前中にも足を付けているのでひんやりした水にはもう驚かない。歓声を上げながら魚を追う。素手で触ることに躊躇(ちゅうちょ)がないように振舞う龍太は、むしろ周りから称賛された。負けじと泰史も跳ね回った。両手で体を(はさ)んでも、つるっと抜けられてしまう。つかめた場合も、それを河原まで保持しきれない。悪戦苦闘しながらも龍太は四匹捕まえた。泰史は三匹だった。昭や吾郎はあまり乗り気がしないようだったが、一匹ずつつかみ取った。洋一郎は収穫なしだ。泰史は笑顔で龍太を()めていた。こげなこともあるっちゃね、と声に出さずに微笑み返す。二組の成果は四十五匹。その後の三組は覚悟を決めた連中が多く、順調に掴んでいったが、四十四匹だった。
 クラス対抗にしようというアイディアは、二組の龍太と一組の阿部さんとで考えた。大いに盛り上がって嬉しかった。そして僅か一匹の差で二組が優勝したので、嬉しさは倍増した。自分がからかわれるのでは、との不安が杞憂だったことに安堵した。

 続いてはバンガローが並ぶエリアに戻り、捕まえたイワナを調理する時間だ。炊事場で孝弘と並んで立つことになった。泰史や昭、洋一郎から何か言われるのではないか、とドキドキしていたが、泰史たち三人は飯盒で米を炊く係に行ってしまった。吾郎や他の班のメンバーで、つかみ取ったイワナの腹を包丁で腹を割いた。これは龍太にとっても初めての経験だった。焼く前の魚の内臓は思ったより鮮やかな色をしており、興味深かった。消化管からミミズのようなものが出てきて、女子たちが騒いでいた。
 孝弘はここに並ぶ十人くらいの中では、最も手さばきがよいように見えた。器用なのだ。そういえば、孝弘は去年の夏休みの工作として、姫路城の模型を作ってきていた。イワナの口に串を刺しながら、話題を振ってみた。
「ああ、覚えててくれた? あれ、大変だったけど、すごかったろ?」
 自信作だったようで、しばらく制作の苦労話をしていた。向こう隣りにいた山田さんも面白そうに話を聞いていた。孝弘はますます得意気に話を続けた。久しぶりにこんな表情を見た気がするが、山田さんの歓心を得ているような孝弘に、少し嫉妬した。
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