第67話
文字数 1,028文字
思い出せば、考えれば、やっぱりあの三人のうち一番小さいのは、泰史だ。夜九時に塾でもない小学五年生が、中学生と一緒に自転車で出歩いている。あそこから出てきたということは、丘の上の公園から降りて来たのだろうか。そして向かう先は、商店街? 泰史の家も同じ方角と言えばそうなのだけれど、まっすぐ家に戻るとは考えにくかった。
塾では、クラス替えもありうるテストが来週実施される。そろそろ本腰を入れて復習を始めたい。少し泰史のことは忘れようとも思うが、そうもいかない。ため息をつきながら、龍太は鉛筆を動かした。
土曜日の帰りの会が終わり立ち上がると、龍太の傍に山田さんが近付いてきた。山田さんは井崎さんに話しかけているのだが、全て龍太にも聞こえている。
「陽ちゃん、今日もまた御手洗君の家に届けるんだよね」
「うん。まあ、仕方ないよね。今日、一緒に行ける?」
鈴原さんは昭や孝弘と盛り上がっている。そちらにちらりと目をやり、井崎さんは続けた。
「真由美、なんか最近私を避けてる気がするな……。ちょっと待ってて。一緒に帰ろう」
そう言って、井崎さんは窓際の席へ向かって行った。龍太は山田さんと二人になってしまった。「あの、山田さん……」
「何?」
「俺も今日、泰史のところについて行っていいかな? ちょっと気になるから」
「悠子が良いっていえば、ね」
山田さんの少し頬が赤らんだ気がしたが、龍太自身の耳が明らかに熱を帯びてしまい、却って恥ずかしくなった。
すぐに井崎さんは戻ってきた。午後に家族と出かける予定がある、と言って、鈴原さんたちよりも早く下校すると伝えて来たらしい。そういうことをいちいち言わないといけないのか、と龍太は驚いた。鈴原さん、恐るべし。これは吾郎と話すときにネタに出来そうだ。
女子二人と一緒に歩く、というのは基本的に一人で歩いているのとあまり変わらない。そういえばそうだったな、と思い少し後悔したが、山田さんの情報を仕入れることができる素晴らしい機会になった。山田さんはやはり、動物や植物が好き。お菓子作りも続けている。最近は物語も読むらしい。「ツッカケ心霊学入門」は、この週末に読んでしまおう、と思い出す。そしてまさか、泰史にクッキーをあげたりしていないだろうな、と心配する。井崎さんは、いかに飼育小屋のウサギが可愛いかを力説していた。糞の状態などを聞いてやりたくなったが、ここは黙っておこう。
やがて、この辺りでは大きい邸宅である泰史の家が見えて来た。
塾では、クラス替えもありうるテストが来週実施される。そろそろ本腰を入れて復習を始めたい。少し泰史のことは忘れようとも思うが、そうもいかない。ため息をつきながら、龍太は鉛筆を動かした。
土曜日の帰りの会が終わり立ち上がると、龍太の傍に山田さんが近付いてきた。山田さんは井崎さんに話しかけているのだが、全て龍太にも聞こえている。
「陽ちゃん、今日もまた御手洗君の家に届けるんだよね」
「うん。まあ、仕方ないよね。今日、一緒に行ける?」
鈴原さんは昭や孝弘と盛り上がっている。そちらにちらりと目をやり、井崎さんは続けた。
「真由美、なんか最近私を避けてる気がするな……。ちょっと待ってて。一緒に帰ろう」
そう言って、井崎さんは窓際の席へ向かって行った。龍太は山田さんと二人になってしまった。「あの、山田さん……」
「何?」
「俺も今日、泰史のところについて行っていいかな? ちょっと気になるから」
「悠子が良いっていえば、ね」
山田さんの少し頬が赤らんだ気がしたが、龍太自身の耳が明らかに熱を帯びてしまい、却って恥ずかしくなった。
すぐに井崎さんは戻ってきた。午後に家族と出かける予定がある、と言って、鈴原さんたちよりも早く下校すると伝えて来たらしい。そういうことをいちいち言わないといけないのか、と龍太は驚いた。鈴原さん、恐るべし。これは吾郎と話すときにネタに出来そうだ。
女子二人と一緒に歩く、というのは基本的に一人で歩いているのとあまり変わらない。そういえばそうだったな、と思い少し後悔したが、山田さんの情報を仕入れることができる素晴らしい機会になった。山田さんはやはり、動物や植物が好き。お菓子作りも続けている。最近は物語も読むらしい。「ツッカケ心霊学入門」は、この週末に読んでしまおう、と思い出す。そしてまさか、泰史にクッキーをあげたりしていないだろうな、と心配する。井崎さんは、いかに飼育小屋のウサギが可愛いかを力説していた。糞の状態などを聞いてやりたくなったが、ここは黙っておこう。
やがて、この辺りでは大きい邸宅である泰史の家が見えて来た。