第22話
文字数 1,122文字
昭が続ける。
「だって、泰史の前で鈴原がいいって言ったら、絶対いじられるだろ」
「えっ? 昭、お前、本当は鈴原さんがいいの? あいつ怖いって」
洋一郎は昼間に怒鳴られたことを言っているのだろう。その場に昭もいたはずだけど。
「いや、怖い訳ないじゃん。たまに怒るのが余計かわいいんだって」
そういう見方もあるのか、と龍太は感心した。
「じゃあ今日も聞かれたら、堤さんでいくんだな?」洋一郎が昭に確認する。
昭は頷いたようだった。そして洋一郎に尋ねた。
「で、お前、どうする? お前昨日寝てたから、今日は絶対言わされるぜ」
そうなると昨晩逃げた形の龍太も、間違いなく泰史たちに追及されるのだろう。
その時、勢いよくバンガローの扉を開ける音がした。泰史が戻ってきた。吾郎も一緒だ。昭と洋一郎がぱっと布団を蹴飛ばし、起き上がる。洋一郎は、昭との会話を龍太に聞かれていたことに気付いたようだったが、それを指摘すると泰史にも内容がバレるの可能性がある。だから黙っているだろう。吾郎も含めて打ち合わせをしておいた方がよかったのになあ、と龍太は思った。一方でもしかすると、泰史と吾郎もどこかでこんな話をしてきたのかもしれないと感じた。とすれば、龍太の答えだけは誰も事前に知らない、ということになる。考えすぎかもしれないが、誰の名前を出しても皆からからかわれる運命だと思った。肯定してくれる味方がいないのだ。そして洋一郎の答えも、吾郎の答えも分からない。もし同じ人の名前を出したら、どうなるんだろう? 面白そうだから敢えて泰史と同じく鈴原さんを出してみようかな、とも思うが、わざわざ面倒を起こさなくていい。それに鈴原さんは綺麗だけど、やっぱり好きな人ではない気がする。山田さん、と言ってしまった場合は、先が思いやられる。ああ、もう。気を張るな。こういう時こそ、てげてげな気持ちだ。
布団をある程度整えて、眠る体制は出来上がった。玄関近くの黄色い照明を残して、全て消すように、今夜の係である岡本の声が聞こえてくる。
「あいつ、ちゃんと仕事してるじゃん」と泰史。お前が言うなよ、と皆思ったはずだ。
玄関に一番近い龍太がスイッチを押し、部屋が暗くなった。どことなく緊張感が走る。数分の沈黙の後、予想通りに泰史がしゃべり始めた。
「なあ、龍太? 吾郎? お前ら、クラスで好きな子いる?」
吾郎が答えた。「何だよ、そういう話かよ? それなら泰史、お前から言えよ。なあ、龍太」
龍太は頷いた。暗がりで見えにくいが、その動きは全員に伝わったようだ。だが、泰史は答えない。吾郎と泰史は特に打ち合わせはしていないのだろうか? 暗闇の中だが、皆の視線を感じる。龍太は仕方なく慎重に言葉を続けた。
「だって、泰史の前で鈴原がいいって言ったら、絶対いじられるだろ」
「えっ? 昭、お前、本当は鈴原さんがいいの? あいつ怖いって」
洋一郎は昼間に怒鳴られたことを言っているのだろう。その場に昭もいたはずだけど。
「いや、怖い訳ないじゃん。たまに怒るのが余計かわいいんだって」
そういう見方もあるのか、と龍太は感心した。
「じゃあ今日も聞かれたら、堤さんでいくんだな?」洋一郎が昭に確認する。
昭は頷いたようだった。そして洋一郎に尋ねた。
「で、お前、どうする? お前昨日寝てたから、今日は絶対言わされるぜ」
そうなると昨晩逃げた形の龍太も、間違いなく泰史たちに追及されるのだろう。
その時、勢いよくバンガローの扉を開ける音がした。泰史が戻ってきた。吾郎も一緒だ。昭と洋一郎がぱっと布団を蹴飛ばし、起き上がる。洋一郎は、昭との会話を龍太に聞かれていたことに気付いたようだったが、それを指摘すると泰史にも内容がバレるの可能性がある。だから黙っているだろう。吾郎も含めて打ち合わせをしておいた方がよかったのになあ、と龍太は思った。一方でもしかすると、泰史と吾郎もどこかでこんな話をしてきたのかもしれないと感じた。とすれば、龍太の答えだけは誰も事前に知らない、ということになる。考えすぎかもしれないが、誰の名前を出しても皆からからかわれる運命だと思った。肯定してくれる味方がいないのだ。そして洋一郎の答えも、吾郎の答えも分からない。もし同じ人の名前を出したら、どうなるんだろう? 面白そうだから敢えて泰史と同じく鈴原さんを出してみようかな、とも思うが、わざわざ面倒を起こさなくていい。それに鈴原さんは綺麗だけど、やっぱり好きな人ではない気がする。山田さん、と言ってしまった場合は、先が思いやられる。ああ、もう。気を張るな。こういう時こそ、てげてげな気持ちだ。
布団をある程度整えて、眠る体制は出来上がった。玄関近くの黄色い照明を残して、全て消すように、今夜の係である岡本の声が聞こえてくる。
「あいつ、ちゃんと仕事してるじゃん」と泰史。お前が言うなよ、と皆思ったはずだ。
玄関に一番近い龍太がスイッチを押し、部屋が暗くなった。どことなく緊張感が走る。数分の沈黙の後、予想通りに泰史がしゃべり始めた。
「なあ、龍太? 吾郎? お前ら、クラスで好きな子いる?」
吾郎が答えた。「何だよ、そういう話かよ? それなら泰史、お前から言えよ。なあ、龍太」
龍太は頷いた。暗がりで見えにくいが、その動きは全員に伝わったようだ。だが、泰史は答えない。吾郎と泰史は特に打ち合わせはしていないのだろうか? 暗闇の中だが、皆の視線を感じる。龍太は仕方なく慎重に言葉を続けた。