第81話

文字数 1,000文字

 六年生のみならず、中学生、ましてやいわゆる不良といわれている連中を相手にするのは、正直怖い。よくドラマや漫画で見るように、ああいう連中は続々とダチとかいう仲間が出てくるんだろう。自分と吾郎だけで立ち向かえるとはとても思えないし、ここに昭たちが入ったからと言って、焼け石に水、というレベルのような気もする。でも泰史のためなら、という思いも当然ある。ちょっと前までは、龍太も泰史の被害者だった。だからその泰史のために、自分が骨を折ることに納得がいかない部分があった。夕方の寒さが身にしみるようになったこの頃には、泰史を悪い道から救い出す必要があるのだと強く思うようになっていた。 

 前日に塾で吾郎に相談していた手前、龍太は一人だけの判断で昭と共に戦おう、などと決める訳にはいかない。吾郎と話ができるのはやはり明日の塾でということになるだろう。そう思いながら、塾の宿題を片付け、目を閉じた。

 翌日、担任は朝から教室にやって来た。相変わらず何があったのかの説明はない。これまでにクラスで流れた情報を整理すると、万引きの後、お店の人が泰史を家まで連れて来たらしい。あの駄菓子屋さんは御手洗さんちの泰史くんのことをもちろん知っていた。だから直接親に引き渡した。それを見聞きできてしまうのは、すぐ近所に住む井崎さんか山田さんだ。言いふらしたのは多分、井崎さん。と龍太は思ったが、確かめはしなかった。
 
 水曜の夜に吾郎と塾で話し合った通り、学級委員の篠山さんが泰史の件に乗り出してきた。彼女は吾郎と同じように、内申書の点数稼ぎが目的で学級委員になったものだと思っていたが、実のところ正義感が強いようだった。御手洗君が学校に来られない理由の一つは、誰かが彼をいじめていたからではないか、と学級会を開くことを提案した。龍太は篠山さんに、鈴原さん派ではない女子を束ねてくれることを期待していたのだけど、もっと直接的に解決するような手段に出て来た訳だ。

 先生の顔色はみるみるうちに青ざめていった。おそらく今週のはじめに、泰史のお母さんが「大人の話」を学校にしに来たはずだ。多分その対応を考えている最中にこの万引き事件が起きた。だからきっと、担任の頭もぐちゃぐちゃになっているのかもしれない。そこに優等生篠山さんからの提案だ。一体先生はどうするのだろう。ちょっといじわるな気持ちも混じりながら、龍太たちは彼女の言葉を待った。
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