第8話

文字数 1,002文字

 吾郎とはその後も何回か、同じように言葉を交わした。吾郎の気持ちや悩みを言葉で聞くことはなかったし、龍太から尋ねることもなかった。しかし、友達を欲する気持ちはどちらにもあるのだろう。一週間たったある日、下校後に遊ぶ約束をした。

 彼らに人気の玩具は、ラジコンカーだった。特撮ヒーローやロボットから、現実世界へ。そんな年ごろなのだろう。龍太自慢のラジコンカーはオフロードタイプだが、吾郎はテレビで人気の警察もの番組である「東部警察」の特殊車両を持っていた。お互いの好みを知るのも初めてだった。龍太は「東部警察」よりも「月に吠えろ」を好んで観ているのだ。近頃はやり出したお笑いも、龍太は「僕達ひょうきん村」を観ているが、吾郎は「サトちゃんゲンちゃん」を観ている。ラジコンカーの操作に飽きた二人は、それぞれの好きな番組の良さを熱く語りあった。龍太は野球中継で番組がない時には、「サトちゃんゲンちゃん」を観ることに決めた。話はそれなりに弾んでいる。しかしあのことについては話に出さない。お互い気をつかっているかのようだ。

 五年生になって、龍太は学校以外の勉強時間を増やしていた。中学受験を考えるようになっていたからだ。大手ではないが、学習塾にも週三回は通うようになっていた。それもあって、吾郎と遊ぶ時間は限られていた。吾郎は野球も辞めてしまったので、放課後は時間が余っているようだった。ある日吾郎が、塾のことを尋ねてきた。吾郎はとても勉強が好きなタイプには思えなかったので、龍太は驚いた。
「俺、友達少ないから、違う中学行こうかと思って」
 吾郎が中学受験? 笑いそうになったが、それはこらえた。そして思った。そうか、そんなにつらい状態なんだな……

 龍太の通う塾に吾郎が現れたのは、それから更に一週間後だった。吾郎が無視されるようなってもうすぐ二か月になろうとしていた。自分の時も二か月くらいだったな、と思い出し、吾郎の姿を追った。塾では、意外に頑張っている。みんなより計算問題を解くのに時間がかかるし、理科や社会の知識も少ないようだ。でもこれから一年あれば、吾郎でもどこかに合格するのかもな、と自分を棚に上げて考えていた。塾には他にも学校の同級生が通っていたが、吾郎は彼らとの関係も悪くない。よし、みんなで私立中学に行こう! と龍太は思った。夕暮れ時の帰り道までには、他の小学校の友達とも打ち解けているように見えた。
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