第125話

文字数 1,150文字

 一時間目の終わりを告げるチャイムが鳴った。担任の先生は説明を途中で終わらせ、すぐに号令を指示した。そして素っ気なく立ち去った。いつもなら鈴原さんたちのグループとちょっとしたおしゃべりをしていくことが多いのに、なんだかおかしいな。龍太がそう思ったとき、昭が振り向いた。
「龍太、ちょっと」誘われて教室の外に出た。出入り口のそばに席のある孝弘もそのあとに続いた。
「何か話?」
「うん。龍太、お前さっき山田と、泰史の話してたんだよな?」
 警戒しつつ肯定すると、孝弘が話に入って来た。
「何? 泰史、なんかあったのか?」
「さっき、山田と龍太が言ってたんだ。大阪? そんなとこ何しに行ってんだ?」
「え、あいつ、大阪にいるの? なんで?」
 孝弘が先走るようなことを言い出す。誤解が広まるのはよくないだろう。龍太は事情を説明した。
「だから、大阪っていうのは、俺や山田さんの推測」
「そこは分かったけど、あいつが東京にいないのは本当のようだな」昭が言う。
「なんか、いいよね。学校休んで遠くへ旅行かあ」
 孝弘の台詞で龍太は拳を握る。誰のせいでそうなった? 言いたいが言えない。そこでチャイムが鳴ったので、慌ててぞれぞれの席へと戻った。龍太は山田さんがちらりと自分を見てくれたような気がしたが、左に顔を向けることはしなかった。

 二時間目が終わった時も、担任の先生はあっさりと職員室へ引き上げた。今日は気分が乗らないのかな、と河田さんが言う。彼女もそれに気が付いたようだ。その言葉に篠山さんが反応する。
「ふふ。そうかもしれないけど、それじゃあプロの教師じゃないわね」
 優等生の篠山さんは先生を批判しない。そう思っていた龍太はその台詞に耳を疑った。
「でも、あの先生、そんなプロってほどでも。ねえ?」
 真面目で教師を信じていそうな河田さんが篠山さんに呼応する。山田さんと話の続きをしようと思っていた龍太だが、この会話は俄然気になってしまう。
「えっ、河田さん。なんでそう思うの?」龍太は右に顔を向け、会話に入ることにした。
「だってさ」声を潜めだす河田さん。
「御手洗くんが来れなくなった原因だって知ってるくせにさ」更に音量を下げる。
「それどころか、その原因と仲良くしている始末じゃん」
 みんな、ちゃんと見ている。龍太はそう思った。
「まあ、見た目を穏便に過ごす、ってことなんでしょ。大人って」篠山さんが言う。
「おんびん?」河田さんには聞きなれない言葉のようだ。
「何事もなく、目立たせないように、って感じ」龍太が補足した。
「ありがとう」篠山さんが龍太に一言お礼を言う。言うべきなのは河田さんだろう、と龍太は思い、苦笑いした。
 鈴原さんたちと賑やかに話をしていた昭がこちらに戻ってきた。この会話はこれで打ち止めだ。そこは三人とも分かっている。
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