第31話

文字数 1,098文字

 悩んでいるうちに、昭が運動会の係に決まった。女子は鈴原さん。この二人がクラスの顔、という雰囲気が出来てしまう予感がする。昭の台頭を良く思わない奴だっていそうだが、なんだか勢いがある。龍太もその勢いに飲まれているような感覚になっていた。学級委員は吾郎と篠山さんに決まった。二人とも単独の立候補だった。篠山さんは龍太たちとは違う塾に通う才女だ。噂では女子トップの桜光女学園を狙えるくらいの頭らしいが、学校ではあまり発言しないのでよく分からない。でもここで学級委員に名乗り出るのだから、きっと目的があるのだろう。そして吾郎。いよいよやる気になったようだ。夏期講習の時に、クラスの代表になろうと言っていたはずの龍太は、ここでも手を挙げることができなかった。吾郎がやるなら、今回は譲ることにしよう。言い訳をしているような気持ちになる自分が、少し寂しかった。

 あとは目立たない係ばかりだが、その中では図書係か生き物係がよいと思っていた。生き物係は、教室の隅にある金魚の水槽と、校庭の花壇の世話をするのが主な仕事だ。別にある飼育小屋のウサギや校内の樹木についても、学校全体の飼育委員の指示に従って担当する月がある。一学期、この係には山田さんと篠山さんが就いていた。篠山さんが抜けた今、もしかすると山田さんと一緒に仕事をするチャンスかもしれない。ただ、生き物係は女子に人気の係で、男子の龍太が立候補するというのはやはりためらいがあった。一方でそんな生き物係に男子が立候補すれば、担任の後押しがあり即決だろう、とも思いながら、次々と決まっていく係を見送っていた。
 
 掲示係という、習字や絵を壁に貼って剥がすだけの係は、三年生の頃から泰史が独占していた。だから他の人は手を挙げない。相方は毎回違うのだが、今学期は泰史と洋一郎が一緒に掲示係になった。「またあいつかよ」と窓側から声がした。でも、それ以上の騒ぎにはならなかった。
 そして、次は図書係を決める番だ。すぐに山田さんが挙手した。不意打ちだったが、よし、俺も、と龍太は思った。しかし、出遅れた。山田さんの隣に座っている孝弘が、一緒に手を挙げている。もちろん重複して立候補があってもいい。多くの場合はじゃんけんで勝負する。図書係は女子に比較的人気だが、生き物係に比べ偏りがないので、おそらく男女を分けずに立候補者全員でじゃんけんをする。ということは、孝弘と龍太という組み合わせになることも有り得る、という意味だ。これはいただけない。孝弘との関係は悪くないけれど、おそらく龍太が一緒だと孝弘はさぼる。それに泰史の件で、あいつらの側に入ってしまうことにもなりそうだ。
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