第94話
文字数 1,090文字
二時間目の始まりを告げるチャイムが鳴ると、井崎さんは話を止めて黒板の方を向いた。まだ担任の先生は教室に入ってこない。それでも休み時間よりは静かになる。鈴原さんに聞かれないようにしたいのだな、と龍太は理解した。
次の休み時間に続きがあるかと思っていたが、井崎さんはその鈴原さんのところに行ってしまった。気にしているところを井崎さんに悟られたくないが、どうしても耳を傾けてしまう。しかもそこには山田さんもいる。意識しないなんて、無理だ。
「今度の土曜日も、楽しみだな」洋一郎がそう言いながら邪魔しに来た。しかし、この声も小さい。おかしいと思いながら、龍太自身も堂々と話せていない気がする。クラスの中心と目され、担任の教師からも信頼されている鈴原さん。二学期から台頭した昭。この二人に気兼ねし、意見できない雰囲気が教室に蔓延しているようだ。朝、孝弘が言いたかったであろうことも、根は同じなのではないか。洋一郎に相槌を打ちながら、龍太はそう結論付けた。
「俺も何か変だと思ったよ」塾の教室で吾郎が言う。
「結局、あの二人が二組を支配しているということになるよな」
あの二人、とは昭と鈴原さん。そして情報通の吾郎は驚くべき事実を明らかにした。
「どうやら泰史は、真由美にしつこくつきまとったらしいんだ」
「え? いつのこと?」
「夏休みの最初だろう。ほら、林間学校で泰史……」
龍太も思い出した。どう見ても泰史の好きな人は鈴原さん。泰史と同じ人を好きと言ってしまうと面倒だから、と昭は堤さんの名前を出していた。しかも昭はあの時から鈴原さんに消しゴムをもらったりしていた。
「じゃあ、もしかしてそんな鈴原さんを、昭が助けたような格好になってるってこと?」
龍太が尋ねると吾郎が頷いた。
「多分な。そこまではっきりは聞き取れていないけど、その頃から昭が泰史を攻撃しだしている。あいつ、ちょうど体がでかくなって、野球でも目立ちだした」
吾郎の話は推測も混じっているようだが、龍太にも納得できるものだった。鈴原さんはその前から、昭に好意があったのかもしれない。そして十月も終わりを迎える今頃までに、二人の結束力はより強固になっているのだろう。そしてその空気が、今の五年二組を覆っている。
「それじゃあ泰史は、野球そのものの不振も重なってしまって?」
「うん、そこに引退した里田さんが絡んで、ってことになると」
「なんだか同情するしかないな、その流れは。やっぱり今度の土曜日も行かなきゃな」
「またうまいケーキが食べられるかもしれないしな」と吾郎が舌を出す。そういう下心は、龍太にももちろんあったので一緒に笑ってしまった。
次の休み時間に続きがあるかと思っていたが、井崎さんはその鈴原さんのところに行ってしまった。気にしているところを井崎さんに悟られたくないが、どうしても耳を傾けてしまう。しかもそこには山田さんもいる。意識しないなんて、無理だ。
「今度の土曜日も、楽しみだな」洋一郎がそう言いながら邪魔しに来た。しかし、この声も小さい。おかしいと思いながら、龍太自身も堂々と話せていない気がする。クラスの中心と目され、担任の教師からも信頼されている鈴原さん。二学期から台頭した昭。この二人に気兼ねし、意見できない雰囲気が教室に蔓延しているようだ。朝、孝弘が言いたかったであろうことも、根は同じなのではないか。洋一郎に相槌を打ちながら、龍太はそう結論付けた。
「俺も何か変だと思ったよ」塾の教室で吾郎が言う。
「結局、あの二人が二組を支配しているということになるよな」
あの二人、とは昭と鈴原さん。そして情報通の吾郎は驚くべき事実を明らかにした。
「どうやら泰史は、真由美にしつこくつきまとったらしいんだ」
「え? いつのこと?」
「夏休みの最初だろう。ほら、林間学校で泰史……」
龍太も思い出した。どう見ても泰史の好きな人は鈴原さん。泰史と同じ人を好きと言ってしまうと面倒だから、と昭は堤さんの名前を出していた。しかも昭はあの時から鈴原さんに消しゴムをもらったりしていた。
「じゃあ、もしかしてそんな鈴原さんを、昭が助けたような格好になってるってこと?」
龍太が尋ねると吾郎が頷いた。
「多分な。そこまではっきりは聞き取れていないけど、その頃から昭が泰史を攻撃しだしている。あいつ、ちょうど体がでかくなって、野球でも目立ちだした」
吾郎の話は推測も混じっているようだが、龍太にも納得できるものだった。鈴原さんはその前から、昭に好意があったのかもしれない。そして十月も終わりを迎える今頃までに、二人の結束力はより強固になっているのだろう。そしてその空気が、今の五年二組を覆っている。
「それじゃあ泰史は、野球そのものの不振も重なってしまって?」
「うん、そこに引退した里田さんが絡んで、ってことになると」
「なんだか同情するしかないな、その流れは。やっぱり今度の土曜日も行かなきゃな」
「またうまいケーキが食べられるかもしれないしな」と吾郎が舌を出す。そういう下心は、龍太にももちろんあったので一緒に笑ってしまった。