第27話

文字数 1,028文字

 新学期のイベントといえば新しい転校生と席替えだ。が、二組には転校生は入って来ず、席替えは先生が作ってきた抽選だった。手作りの抽選箱に手を入れ、一枚の紙切れをつまむ。小さい紙切れだが、大事そうに両手で持って、ゆっくり開いた。その結果、廊下に近いエリアに決められ、すぐ後ろは泰史。あまり嬉しいとは思えなかったが、よろしくな、と軽くハイタッチをした。泰史はソワソワと教室を見回すが、男子はすぐに廊下へ出なくてはならない。龍太が()かして、二人で廊下へ出た。その間に女子の抽選がある。廊下で待たされる男子は不自然に騒ぐのを常とするが、龍太は一人で暗算をしていた。山田さんが隣になる確率は、二十二分の一。一割もない。三回計算したが、答えは同じだった。

 教室内から歓声が聞こえてくる。ガタガタと椅子や机が動く音が落ち着いたところで、先生から声がかかる。龍太たちは一斉に教室へと戻った。入口から近い場所なので、すぐに隣が誰なのか分かってしまう。井崎さんだった。彼女はどちらかというと鈴原さん寄り。目が合ったが、嬉しそうにはしていない。こっちも同じだよ、と思った。山田さんはすぐに見つけられなかったが、隣の列にいる洋一郎の近くにはいないようだった。
 始業式のこの日は、授業無しでこのまま帰りの会になる。宿題のほとんどが回収され、「青空」と墨汁で書いた半紙以外には提出しなかった泰史が怒られているのを、いつも通りの眺めだなあ、と思いながら見つめていた。その時、窓側後方の席から声が飛び始めた。

「暇なんだから、宿題ぐらいちゃんとやれよなあ」
「あの習字だって手抜きみえみえじゃん」

 誰が、誰に向けて言っているのか、すぐに分かった。振り向いて確かめるまでもなかったが、どうしても目が行ってしまう。そして孝弘の隣に山田さんの姿を認めた。その前、つまり昭の隣が鈴原さん。あいつら、ラッキーすぎる。
 一方で泰史と席が近く、一緒に行動することがどうしても増える自分は、どう振る舞うべきだろう。咄嗟(とっさ)に考えたのは、そんなことだった。担任教師は昭と孝弘に向かって注意をしたが、ほんの一言だけだった。ただそれがきっかけになり、泰史への説教も終了した。ちょっと振り向いて泰史を確認するが、机に肘をついてヘラヘラした表情だった。先生に怒られたことも、昭と孝弘からの言葉も意に介していない。そんな風に見えた。泰史の考えていることはよく分からないな、と思った。そして、昭や孝弘を避けるように家へと急いだ。
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