第5話

文字数 1,025文字

 五年生に上がる際、クラス替えがあった。折角慣れた友達とも、違うクラスになってしまった。転校生の龍太は、他の学級の子とはほぼ交流がなかった。だから緊張した。半分以上が知らない子なのだ。他の児童は、近所だったり、一・二年生で同じクラスだったり、とあまり今回のクラス替えに影響を感じていない様子だった。もはや方言でいじられることはなかったが、龍太が目立つことを良しとしない空気が、再び作られていた。

 きっかけはよく分からない。ある日から龍太の発言に対して、否定的な発言が続けられるようになった。授業中、皆が答えられない質問に対し、龍太が正解を出すとすぐさま
「なんでわかるんだよ? カンニング!」
「ガリ勉マシーン、ク・ロ・キ!」
 なんて続けられてしまう。
 新しい担任教諭はそれを咎めるが、毎回そうしてくれる訳ではないし、決して強い口調でもない。授業を進めることが大事なんだろうな、と龍太は解釈し、我慢することにした。それに言い返したところで、余計に自分が追い込まれるのは今までの経験から想像できた。自身が我慢すればよい、と言い聞かせた。

 龍太に文句をつけるような発言をするのは、主に三人の男子。泰史、吾郎、孝弘だ。皆近所の野球チームに入っていて活発な連中だった。泰史だけは三年生の時から同じクラスで、「大ちゃん」という綽名(あだな)を広めた当事者の一人なのだった。三人とも教室でも目立つ存在で、その発言に多くの児童がついていく。その取り巻きも含め、十人ほどから無視されるような日々を過ごしていた。

 そうなってくると、学校、というよりもクラスに行くことが徐々に辛くなっていく。
 言葉にできない、聞いてくれる人がいない状況は、身体的な不調を呼び込む。登校前に頭が痛くなる。二時間目くらいで鳩尾(みぞおち)が痛くなる。我慢できず手を挙げ、「胃が痛いです」と言った。すると声がする。孝弘だ。
「なんで胃って分かるんだよ。おかしいんじゃね?」続いて取り巻きが笑う。
 さすがに教師も怒った。しかし龍太は半べそだ。許可を得て保健室へと階段を下るが、涙が止まらない。
 下校時刻が近付き、なんとか踏ん張って帰宅する。自営業の黒木家ではなかなか両親に相談する時間もない。しかし十一歳の男子だ。時間があっても、家族に対していい恰好をしてしまう。テレビと勉強とがそのはけ口になった。だから一層、勉強では他の児童の上をいくことになる。ますます授業中に他の児童と差がつき、からかいの種を撒いてしまうのだった。
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