第129話

文字数 1,199文字

 土曜日の帰りの会が終わり、龍太は吾郎に声をかけた。吾郎もそれを待っていたようだった。
「今日、どうする?」どちらからともなく声を出し合う。
 昨夜も泰史の家が閑散としていたことは、山田さんから聞いていた。しかし来週には、昭たちが泰史に謝罪する予定になっている。そして何より、今日は遊べない、と誰も泰史の口から聞いてはいない。
「やっぱ、一応行っておかない?」龍太が言う。
 いつの間にか後ろに立っていた洋一郎が「うん、うん」と頷く。
「そうだよな、いなきゃいないで仕方ない」吾郎が言うと、
「こっちが約束破ったことになるのは嫌だしね」と洋一郎が続けた。
 いつもは野球の練習のため急いで帰るはずの昭と孝弘が、三人の様子を見ながら何か話している。そのそばには鈴原さんたちが楽しそうにはしゃいでいた。そして昭と孝弘が近付いてきた。
「お前ら、もしかして泰史と会っているのか?」昭が尋ねた。
 三人ともためらいがあったのか、数秒の間があいた。その沈黙を龍太が破る。
「先週まで何回か、土曜日に会って遊んだよ」
 吾郎と洋一郎は、驚いた目で龍太を見た。しかしその直後、彼らも意を決したように首を縦に振った。
「結局お前らが、あいつのわがままをのさばらせることになるんだろ」
 そう言われてしまうと全面的な否定は難しい。でもやっぱり、だからといって味方が誰もいなくなってしまうのは駄目だ。泰史の居場所を誰かが作らないといけない。
「でも、泰史を追い詰めたり、見捨てたりするのは違うだろ」勇気を出して龍太が言った。すると吾郎も続いた。
「俺だって泰史には恨みがない訳じゃないけど、あいつがどんどん離れていくのは辛いんだ」
 それに孝弘が反応する。
「やられた分はやり返す。俺たちはそうしているだけだ」
「それってさ」今度は洋一郎の番だ。
「やられた分とやり返す分が同じ量だなんて、誰にも決められないよね」
 大人みたいな台詞が洋一郎から飛び出したので、全員が彼の顔を見た。ちょっと臆した様子の洋一郎だったが、話し続けた。
「いや、だって、やられたからやり返す、ってなんか正しい気もするけど、そんなん永遠に終わらない訳じゃん? どっちかが消えてしまうまで続くってこと?」
 不服そうに昭が答える。
「向こうが謝ったり、降参してきたら終わりになる」
「じゃあ、そうなるように泰史に言っているってことだよね? でもあいつが言わないから、まだいじめるんだってことだよね?」
 これには昭も孝弘も答えられずにいた。また沈黙が訪れた。教室に残っていた他の児童たちも帰ろうとしない。
「それにあいつは今、一人なんだ。昭たちはそうじゃない。そしたら、俺たちだけでも一緒にいてやろうってなるんだよ」半分泣きそうになりながら、洋一郎が言う。言葉が詰まりかけている。
「だから、昭たちに、俺らが泰史と遊ぶことを邪魔されたくはないってことだよ」龍太がそういって、話をまとめる形になった。
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