第64話
文字数 1,098文字
金曜日の朝も、泰史は姿を見せなかった。吾郎に呼び出され、調査は出来たのかと尋ねられた。もうハウジーズの真似はしていなかった。聞けていない、と答えたところ、「じゃあ学級委員の俺が一肌脱ぐか」と言う。自覚があったのか、と驚いたが具体的に何をするのかは分からなかった。話しかけられない自分が言える立場にないのは分かっているが、山田さんにあまり話しかけて欲しくないとも思った。
二時間目のあと、昭と孝弘に呼び止められた。窓際の席に向かう。山田さんは逆に、土井さんと小島さんの席にいた。近くにいない方が、意識はしないで済むかと思いながらも、やはり残念な気もする。
「泰史がなんで学校に来ないか、龍太、知ってるか?」昭が言う。
「知らない。お前ら、何か知っているのか?」と龍太も聞いてみた。
「知らないけど、な」と昭。
そして孝弘が後を継ぐ。
「昨日の夕方、川の土手を歩いているのを、俺たちは見たんだ」
「えっ? 一人だったか?」
「多分一人。普段着だけど、野球のバッグを持っていた」
「バッグ?」
「でな」と再び昭。
「あいつ、病気じゃないってことだから、今日か明日の練習に来なかったらクビかもしれない」
学校ならその位で怒られもしないかもしれないが、野球チームは全然違うのだろう。確かにそんな窮屈な雰囲気がある。四年の時龍太も誘われたが、入部に至らなかった理由の一つはそれだった。
「じゃあ、あいつ、どうするんだろう? っていうかそれ、伝えないと何か、可哀想だな」
「確かにそうだけど、監督がやるんじゃないのかな。俺は知らない」
実質キャプテンのように見えた昭がそう言った。ということは、大人同士の話になっている、ということだ。昨日見かけた泰史のお母さん、あるいは見たことがない泰史のお父さんが、あいつにそう伝えるのだろうか。学校には顔を見せずに、練習に参加するということもあるのだろうか。いや、こいつらどうせ、今日泰史が練習に来たら、学校サボって野球は来るのか!? とからかうのだろうな。大人が許しても、泰史がやりたがらなくなるのではないだろうか。そう思うと、龍太は腹が立ってきた。
「それ、お前らのどっちかから直接言ってやらないと、ダメだろ」
「そうか? もう良いんじゃねえの?」孝弘が続ける。
「俺らが言って、来るぐらいならサボったりしないだろ」
野球チームに入っていない龍太は、どこまで口を挟めるものか、と考えてしまう。かつてチームに所属していた吾郎に目を向けてみた。どうやら聞いていない振りをしているらしい。ずっとそこにいるから、聞いているのはバレバレなのだが。何が一肌だ、と思ったが、今は龍太がこの二人と対峙するのだ。
二時間目のあと、昭と孝弘に呼び止められた。窓際の席に向かう。山田さんは逆に、土井さんと小島さんの席にいた。近くにいない方が、意識はしないで済むかと思いながらも、やはり残念な気もする。
「泰史がなんで学校に来ないか、龍太、知ってるか?」昭が言う。
「知らない。お前ら、何か知っているのか?」と龍太も聞いてみた。
「知らないけど、な」と昭。
そして孝弘が後を継ぐ。
「昨日の夕方、川の土手を歩いているのを、俺たちは見たんだ」
「えっ? 一人だったか?」
「多分一人。普段着だけど、野球のバッグを持っていた」
「バッグ?」
「でな」と再び昭。
「あいつ、病気じゃないってことだから、今日か明日の練習に来なかったらクビかもしれない」
学校ならその位で怒られもしないかもしれないが、野球チームは全然違うのだろう。確かにそんな窮屈な雰囲気がある。四年の時龍太も誘われたが、入部に至らなかった理由の一つはそれだった。
「じゃあ、あいつ、どうするんだろう? っていうかそれ、伝えないと何か、可哀想だな」
「確かにそうだけど、監督がやるんじゃないのかな。俺は知らない」
実質キャプテンのように見えた昭がそう言った。ということは、大人同士の話になっている、ということだ。昨日見かけた泰史のお母さん、あるいは見たことがない泰史のお父さんが、あいつにそう伝えるのだろうか。学校には顔を見せずに、練習に参加するということもあるのだろうか。いや、こいつらどうせ、今日泰史が練習に来たら、学校サボって野球は来るのか!? とからかうのだろうな。大人が許しても、泰史がやりたがらなくなるのではないだろうか。そう思うと、龍太は腹が立ってきた。
「それ、お前らのどっちかから直接言ってやらないと、ダメだろ」
「そうか? もう良いんじゃねえの?」孝弘が続ける。
「俺らが言って、来るぐらいならサボったりしないだろ」
野球チームに入っていない龍太は、どこまで口を挟めるものか、と考えてしまう。かつてチームに所属していた吾郎に目を向けてみた。どうやら聞いていない振りをしているらしい。ずっとそこにいるから、聞いているのはバレバレなのだが。何が一肌だ、と思ったが、今は龍太がこの二人と対峙するのだ。