第75話

文字数 1,125文字

 昼休みが終わりに近づき、吾郎や洋一郎と一緒に教室へと戻った。いつも教室には小島さん達のグループがいて、手書きのノートを見せ合ったりしている。山田さんが時々そこに入っているのは知っていたが、今日は様子が違う。鈴原さんと中屋鋪さんがその集団に入っている。「えー、面白いぃ」と中屋鋪さんが言えば、鈴原さんが「この男の子、カッコいいねえ」と続ける。小島さんは少し戸惑いながらも嬉しそうに微笑んでいた。土井さんと他の二人、高柳さんと斉藤さんは、龍太から見ても嫌そうな表情をしていた。

 井崎さんが教室に戻ってきた。鈴原さんと中屋鋪さんは更に笑みを浮かべ、「悠子、小島さん達、楽しいね!」とはしゃぎながら、井崎さんを含めた三人で窓際の席へと移っていった。
 山田さんもそのあと一人で教室に入ってきたが、すぐ後ろから孝弘と昭がやってきて、山田さんに声をかけている。山田さんは軽く微笑んだだけで自分の席に座った。あの二人にはあまり関心がなさそうなので龍太は安心したが、といってもそこは孝弘の隣の席であり油断はできない。気になりながらも、井崎さんにまた指摘されるのは避けたいのであっちを見ないように気を付けた。

 間もなく井崎さんが龍太の隣に戻って来た。その井崎さんが龍太に耳打ちする。「陽ちゃん、マネージャーを断ってたよ。私らは断れなかったけど」龍太は思わず目を見開く。そして、「黒木君、多分チャンスあるから、頑張りなよ」とささやかれた。えっ、と右隣の井崎さんをみると、彼女は逆の右を向いていた。井崎さん以外にもバレているような気がして、背筋がゾクっとしてしまう。

 掃除の時間になった。この日は昇降口の当番で、昭たちも一緒だった。昇降口の掃除は雑巾がけがなく、水を床にまいてデッキブラシをかけるので楽だ。また人目にもつくためか、あからさまにさぼることはない。その分、ブラシをかけながら話をすることになる。昭と孝弘が、隣の下駄箱の列で喋っているのが聞こえてくる。龍太に聞こえることは承知の上でのことだろう。
「ああ、むかつくなあ。なんで俺らが悪いことになるんだよなあ」孝弘だ。
「さぼったり、目立とうとしてるのは、あっちだろ。下手くそなくせにな」昭が続ける。これが本音なんだろう。

「チクるやつとか、殴りたくなるよな」俺のことか、と龍太は思う。
「やめとけ、机投げられるぞ」「そういや、そうだな!」
 デッキブラシでぶっ叩いてやろうかとも思ったが、それはさすがに駄目だ。冷静にいこう。
「おーい、昭。そっち終わったか?」さりげなく声をかける。これしかないだろう。
「ああ、龍太。おう、終わったところだ。戻るか?」
 そう言って龍太たちは、少しずつ距離を開けながら階段を各自で登っていった。
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