第77話
文字数 1,087文字
見つからない方がいいだろうと
俊太がおやつのプリンを食べている横で、龍太はいつものようにおにぎりを頬張る。今日は台所に母の背中がある。やはりお母さんがいるとほっとする。塾に行きたくないな、と一瞬思ってしまった。そんな気持ちを抑えて、おにぎりをぐっと飲みこみ、お茶を喉に流し込んだ。いつもより点数が悪いであろうことは、何となく伝えてはいる。それについてはしかし、母も父も何も言ってこなかった。だから余計に、頑張ろうと思った。そして、行ってきます! と家を出た。
塾へ出掛ける時は、大通りを使わない。住宅街の通りを歩いて街中へと向かう。泰史のお母さんがまっすぐ家に戻るならば、ここで出くわすことはないだろう。そう思いながら商店街の入り口にある児童公園を横切った。ここを通れば一、二分は近道になる。ふと先をみると中学生二名と六年生一名、合わせて三人がジャングルジムに登っているのが目に入った。六年生だと分かるのは、それが里田さんだったからだ。小さな子が遊べなくなるだろうに、と不快な気持ちになったが、そんなことを龍太が直接言えるはずはない。絡まれたりしないよう、むしろ顔を背けて歩いていた。
「あの、泰史とかいうの、すげえな。小学校行かずに俺らとつるんで」
聞くつもりのない彼らの言葉が耳に飛び込んできた。泰史、この連中とつるんでいる? 目が合うと、ガンを飛ばしたなどと因縁をつけられるので、その場は足早に通り過ぎた。こっそり振り返ってみると、中学生はタバコを手にしている。中学生が夕方、制服で堂々とタバコを吸う街。これを知って中学受験への決心を固めたのは、龍太自身だった。その問題児たちが泰史のことを話題にしている。以前一緒にいるところを目撃はしていたが、はっきりと言葉で聞いてしまった今、大きな衝撃を受け、同時に落胆した。