第46話

文字数 1,198文字

 ちょうどチャイムが鳴った。繰り返し音が後半になり、泰史と洋一郎が駆け込んできた。こんな話をしていたにもかかわらず、孝弘と昭は露骨に嫌な顔をして、その場を離れた。続けて行われる掃除の準備として、机を後ろに下げる。龍太や泰史たちは廊下の担当だったので、そのまま教室を出た。箒を持って廊下を走る泰史を見て、結構元気じゃん、と思った。

 六時間目が終わり、飼育小屋のウサギに餌をあげ、糞掃除をする。生き物係の仕事なので、井崎さんが一緒だ。かわいいーとはしゃいで餌はやるくせに、糞の始末をしない。なのでBB弾より少し大ぶりな丸い糞を集め、ゴミ箱に持って行くのは毎回龍太だった。飼育小屋からふと校庭をみると、泰史が一人で帰ろうとしているのが見えた。洋一郎とは途中まで同じ方向なので、帰りは一緒にいることが多かったのだが。声をかけようと思ったが、ここからだと大きな声を出すことになってしまい目立つだろうから止めておいた。

 飼育小屋の掃除を終え、教室に戻った。こんな時間まで残っているのは鈴原さんとその一味。今日は彼女を入れて三人。井崎さんを待ちながらチェーリングで遊んでいたようだ。井崎さんをみつけ、中屋敷さんが声をかける。
 三人が一斉に床から立ち上がり、井崎さんを囲む。龍太なんて存在しないかのように振る舞っている。まあ、さようならぐらいは言おうかな、と身構えていた龍太に、鈴原さんが近付いてきた。
「黒木君。御手洗君と仲良いの?」
「いや、悪くはないと思うけど、何で?」
「ううん。なんでもない。じゃあ、バイバイ!」
 笑顔の鈴原さん。続けて井崎さんたち三人もバイバーイ、と声を出す。なんだ、こいつら? といい印象は持てないが、近くで見た鈴原さんはやっぱり美人だ、と思ってしまった。

 塾の無い木曜日。今夜こそ山田さんに返事を書きたい。塾がない日は夕飯後しばらく弟とアニメを見ているが、今日はすぐに席を立った。母は「おおっ? どうしたと?」とからかってきたが、返事もせずに二階へ上がった。

 下書きを書こうと使い古しの自由帳を引っ張り出す。インドネシアの大きなトカゲが表紙のヤポニカ学習帳だ。生き物係になったのは、山田さん目当てだったことは認めるが、実は生き物には関心はある。山田さんは植物が好きなのだろうけど、こういう爬虫類とか、どうだろうな? 井崎さんは生き物係のくせに絶対嫌がるだろう。こういうのを気持ち悪がるのが、女子としての基本姿勢だと思っているんじゃないかな? ぶりっ子というやつだ。そう思うと逆に、山田さんはきっとコモドドラゴンにも関心を持つに違いない、と信じた。そして何故か、帰り際に見た鈴原さんの顔を思い浮かべた。アイドル顔というのは、そういうものなんだろうな、と思うがそんな自分が嫌だった。そして机の引き出しをあけ、例の手紙を読み返した。黄緑色の切れ端も確認する。そう、俺は山田さんが好きやとよ! 
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