第15話

文字数 1,080文字

 大きな焚火を囲んで焼いたイワナを頬張る。こんな食べ方をするのも、大勢で同じものを食べるのも初めてだ。テレビも見ない、勉強もしない平日の夜は本当に久しぶりだった。昼間は曇り気味だったが、薄暗い空には星が瞬きだした。塾の教科書で知ったアンタレスが尾根の切れた南の方角で赤く輝いている。その名前を口に出すと、きっと泰史に何か言われるので黙っておこう。あとで吾郎とは知識の確認をし合おう。

 少し離れたところでは、孝弘は赤木たちと楽しそうにしゃべっている。よかった。そう思ったが、同じ集団に山田さんたちの女子班が混ざっていることに気が付いた。泰史たちもそれが気になっていたようだ。
「おい、孝弘が女といちゃついてるぞ」
「赤木も松岡もだ。変態か?」
「おい、龍太。孝弘にスケベって言ってやれよ」泰史が言う。
 ここで泰史と喧嘩するわけにもいかないが、ちょっと女子と喋っているからって変態やスケベはないだろう。そりゃあ、俺だってちょっと羨ましいけど。そう思って黙っていたら、吾郎が泰史に向かって言った。
「それは違うだろ、泰史。俺らも女子のところに行こうよ。真由美のところがいい」
 吾郎と真由美とは隣同士の家で、保育園の頃からずっと同じクラスだった。思春期にさしかかり、女子を下の名前で呼びにくくなって来た龍太たちだ。だから驚いたが、吾郎にとってはずっと「真由美」だったのだから、今更姓で呼ぶ方が照れくさいのかもしれない。そして、泰史にはっきり意見が言える吾郎は格好よいと思った。
「ああ、鈴原たち? まあ、いいか。行こう」
 意外にも悪態をつかずに泰史が従った。吾郎も少し驚いた様子を見せたが、龍太も含めた五人が彼女たちの班に近づいた。真由美も吾郎には全く抵抗がないのか、「いいよー」と場所を空けてくれた。鈴原真由美と四人の女子たちも楽しそうに火と星空を眺めていた。龍太は、炎に浮かぶ鈴原さんの顔を綺麗だと思った。
「あの赤い星、アンタレスっていうんだ」
 吾郎に先を越された。でもワクワク、ドキドキしながら就寝時間まで過ごすことができた。きっと孝弘もあっちで同じように思っているのかな。どんな話をしているのかも気になった。

 やがて就寝時間となり、五人で過ごすバンガローに戻った。思いっきり体を動かしたためか、洋一郎と吾郎はすぐに眠ってしまった。昭と泰史は寝付けず、二人でひそひそと話を続けていた。それも気になって、龍太も寝られなかった。龍太はこの二人の会話に入りたい訳ではないのだが、自分の悪口が始まってしまうかもしれないと不安だった。だから目が覚めた振りをして、隣の昭に声をかけた。
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