第12話

文字数 1,121文字

 その後も、泰史と孝弘との衝突は無かった。ロクヨンも無かった。吾郎の言う通りだ。見かけ上雰囲気が良くなったクラスは、林間学校を控えていた。三泊四日と六年生の修学旅行よりも長い。明日はクラス内で班分けをする。五人組が同じバンガローで四日間を過ごすので、メンバー選びは重要だった。龍太は吾郎とは同じ班になりたい。が、孝弘、泰史の二人と三泊を過ごす自信はなかった。夜、塾の宿題をやりながら考えてしまう。どんな班になるとやろ。法事以来、独り言は宮崎弁に戻っていた。もし泰史が入ったら、昭が付いてきて、孝弘も入れば、これで五人かあ。大丈夫やろか……。

 次の日の四時間目、いよいよ班分けの時間だ。龍太は林間学校の準備係でリーダーを引き受けていた。受験の為にクラスの仕事をした方が良い、と塾で教えられたため立候補した。この件では誰からも揶揄(やゆ)されることはなかった。班分けの方法は、まず希望を募り、じゃんけんで調整することにしていた。
 吾郎は龍太に、同じ班になろうと前々から誘ってくれていた。だからここは決定だ。そんな二人に、珍しく昭が話しかけてきた。
「なあ、龍太。俺、泰史と洋一郎と組むんだよ。俺たちと一緒になろうよ」
 洋一郎は比較的大人しい性格で、泰史とは家が近い。野球はやっていないが、意外に足は速い。誘われると正直なところ、悪い気はしない。吾郎と自分よりも、岡本たちの方が昭たちには良いのではないか、と思った。が、岡本はさっさと五人組を固めたようだった。その時、孝弘と目があった。孝弘は未だ誰とも組んでいないようで、ちょうど吾郎が声をかけていた。あ、吾郎、今はまずい……。

 ルール通り、じゃんけんで外れる一人を決める。その一人は、三人しかいない赤木たちの組に入ることになる。クラスの人数の関係で、一班だけ四人になるのだ。それなら吾郎と二人で赤木の班に入る方が良い、と龍太は咄嗟(とっさ)に思った。だが、昭が一緒になろうと誘ってくれたので、それを断るのも良くないと思った。それに、赤木たちとは馴染みも薄い。
 班分けの為に、教室の机は左右に寄せられていた。すっぽり空いた場所に六人が集まる。女子も含め、他は決まったようで、皆が見ている。そんな中、昭が孝弘に耳打ちしてから、龍太のところにもやってきた。
「グー出せよ」

 号令は泰史だ。こういう時、すかさず中心になれるのは見事だ。
「最初はグー、じゃんけんぽんっ!」
「サトちゃんゲンちゃん」のゲンちゃんがテレビでやっていたやり方が標準になっていることにまだ慣れないが、タイミングはなんとか合った。
 孝弘がチョキを出す。他は皆、拳を握ったままの、グー。

 一回の勝負で班分けが成立した。孝弘は無言で赤木たちのところへ走り去った。
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