第3話

文字数 1,006文字

 その日、悔し涙を浮かべながら家に帰った。転校してきてから毎日、龍太は一人で下校している。今の自宅は小学校から歩いて数分しかかからない。そして二階に作られた自室に(こも)った。
 母親と弟が楽しそうに話している声が階下から聞こえてきた。ちょうどおやつの時間かな。でも、今は食べる気がしない。宿題でもやっているふりをしよう。

 予想通り、一〇分ほどで母と弟が部屋を覗きに来た。さ、やってるふり、やってるふり。
 「あら、関心やねえ」そっと母が呟いて、階下に戻った。龍太の大好物であるピーナッツ揚げを一山置いていってくれた。部屋に運び込み、一気に食べた。少し気持ちが落ち着いた。よし、本当に宿題終わらせちゃるか。やっぱり簡単すぎて張り合いはなかった。

 次の日、いつも通り登校班に入って学校へ行った。登校班にいる三年生は、別のクラスなので昨日のことはあまり気にしなくていい。そして学校までの数分は、そんな話もなく過ぎていった。

 クラスに入ると、なんだか様子が違った。いつも真っ先にからかいに来る連中が寄ってこない。オレのこと、びびってんのかな? と思った。
 担任からは、今日の放課後に居残りを命じられた。日中の授業はあまり集中できなかったが、きっと勉強面では支障がない。休み時間も掃除の時間も、今まであまり話をしなかった男子と一緒にいた。こいつらは、あからさまにからかったりはしない。心の中ではどう思っているかは分からないけど。

 放課後、担任と教頭先生とにいろいろと聞かれた。けが人や壊れたものがなかったので、親の呼び出しはなし、とのことだった。でもここに、あいつらがいないのはおかしいと思った。教師は、子どもを信用する、というが、何も言ってない相手に机を投げる奴がいると思うのだろうか。オレを変な奴だと認定することで、丸く収めるのか? と子どもながらに憤りを感じた。学校は信じられないと思った。

 次の日から、あまり体が強くなく、大人しめの男子と話すことが増えた。龍太自身、喧嘩っぱやいが、実はかけっこなどは得意ではない。この年代は運動が得意で話が巧みな男子がクラスの中心になりやすい。宮崎の頃も仲良くはしていたが、そういう活発なグループには心から馴染めていなかったというのが、正直なところかもしれない。からかってくる連中というのは、そういう集団に入っていることが多いので、机の件がなくとも離れていくのは自然な流れだったのだろう。
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