第11話

文字数 967文字

 塾の休憩時間に吾郎と話をした。今度は孝弘が泰史に無視されてしまうのか、聞いてみた。吾郎は少し考えてから、しゃべりはじめた。
「たぶん、野球のことじゃないかな……」

 孝弘と泰史は同じ野球チームで活動している。六年生に混じって、二人はレギュラーなのだという。実は吾郎も有力メンバーだったが、その吾郎が抜けてしまった。そこで四年生になる孝弘の弟がレギュラーに抜擢された。泰史はもう一人の五年生である昭を使ってほしかった。昭は肥満気味で、運動神経も鈍いが、パワーがある。当たれば飛ばせる選手だという。しかし決めるのは監督。その監督が孝弘の伯父さんにあたる人なのだった。吾郎によれば、孝弘の弟である孝幸は、プロ野球に憧れる松本家の希望の星で、もしかすると孝弘よりも上手いかもしれないという。だから伯父さんが監督でなくても、孝幸の起用は当然の結論だと吾郎は考えている。

 昭は、四年の時から龍太と同じクラスだった。図体はでかいが、確かに龍太より鈍い印象だった。性格もいまいち目立たないので、「大ちゃん」と呼んでからかってきた当事者だったかどうかすら覚えていない。でも今、泰史の取り巻きになっていることは確かだ。あいつにそんなバッティングセンスがあるなんて信じられない。
 そして泰史も意外といいやつなのかな、と思った。でもだからといって、孝弘を無視したり、オレを含めた他の子をいじめるのは、やはり良いことではないだろう。それに、孝弘を攻撃したところで、昭が上手くなるものでもないはずだ。
 吾郎が野球を辞めようと思っていたのは、半年以上前からだという。レギュラーではあったが、漠然と憧れていた甲子園やプロ野球は、自分には縁遠い世界だと感じ始めていた。孝弘の弟、孝幸のセンスを見せつけられたせいもあるかもしれないが、試合などで他チームのすごい奴を見ていれば気が付かない方がおかしい。
 それでもチーム内では有力選手だった吾郎が辞めると言い出した頃から、泰史との関係が悪化したようだった。その吾郎の予想では、ここで泰史と孝弘が分裂したらチームが崩壊するので、ロクヨンにはならない。高橋や岡本といった、泰史の部下みたいな連中が騒ぎ立てても、きっと泰史はそれを抑える。でも、だからこそ、きっとぎくしゃくする感じは続くかもね。そう話す吾郎は、何だか大人びて見えた。
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