第138話

文字数 1,078文字

 無言のまま三人は河川敷へと自転車を走らせた。三人で並んで体育座りをしたまま、その先の川面を見つめていた。日は少し西に傾き、向こう岸からは「おーい、おーい」と外野練習でボールを待つ少年の声が聞こえてくる。
 うーん、と体を伸ばしながら洋一郎が口を開けた。
「泰史、何なんだろうな」
「あいつのああいう、なんだろう、気まぐれなところな」吾郎がつなぐ。
「まあ、前から突発的というか、急に自分勝手になるよね」龍太も呼応した。
「それに今日は山田が来てたのに、なあ、龍太」吾郎はニヤリとしながら龍太を見た。
 龍太は胸の辺りにムズムズしたものを感じながら吾郎を見返し、
「それでも泰史は変わらないんだよな」と、泰史の話題から反れないように気を付けた。
「あいつがそういうヤツだってことは、俺たちも分かってる。でも一人にしたくない」
 洋一郎が言うと、
「そう。それに泰史だって俺たちと遊ぶために、ああやって大阪から帰って来るんだぜ?」
 と、吾郎も答えた。そしてまた、三人で黙った。秋の風にススキが揺れる音が耳に届いている。
「やっぱり来週もまた、行くよね?」沈黙を破ったのは龍太だった。
「俺たちも変わらないな」吾郎が言うと、洋一郎が笑い出した。
「ほんとだね。何でそうするのか、もう分からなくなって来たけど」
 ひとしきり笑い合ってから、三人は自転車を漕いで家路についた。
 
 洋一郎と別れ、二人になったところで吾郎が龍太に問いかけた。
「山田は、泰史のことをすごく気にかけているよな?」
「うん、そうだよね。だから今日も来たんだよね」
「そうだけど、今日来たのはそれだけじゃないだろ」
 龍太は右を走る吾郎に目を向けた。吾郎が話を続けた。
「龍太、お前、もっと山田に優しくしてやれよ」
「えっ?」
「ああいうところで、山田を守るって態度を出さないと。洋一郎も下手くそだからまあ、大丈夫だし、今のところ山田は龍太に気が向いているみたいだけどな」
 龍太が言葉を繋げずにいると、キィと音を立て、吾郎が視界から消えた。慌てて龍太もブレーキに手を掛けた。
「ど、そういうことだよ」龍太は振り向いて吾郎に問いかけた。
「もうさ、お前らバレバレだからさ。そろそろはっきりさせたらいいんじゃない?」
 いつもつっかえているモヤモヤした気持ちが、龍太の中で急に大きく膨れ上がって来た。
「な、なあ、吾郎。実は相談したかったんだ」やっとの思いで言葉を発した。
「おう、なんでも聞けよ」
 この余裕あるニヤケ顔が少し癪にさわるが、この機会を逃さない方がいい。龍太はそう判断して、吾郎と自転車を押しながら小学校の下にある児童公園に入った。
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