第99話

文字数 1,011文字

 給食の時間になっても、井崎さんの表情は浮かないままだった。昨日、バスケットボールの練習に参加したのか、したとしたらどうだったのか。龍太としても気になるところだったが、何となく聞きづらい雰囲気があった。それでも井崎さんは給食の間、同じ班の小島さん、土井さんとはいつも通りにおしゃべりしている。泰史が来なくなって以降、龍太の班は男子一名。決してそうされている訳ではないけれど、仲間はずれになっているような感覚はどうしても拭えない。女の子たちの話を聞いているふりをしながら、もうすぐ十月も終わることに改めて気が付いた。来週は席替えだ。今度こそ山田さんと同じ班になりたい。そういえば、泰史の席はどうなるんだろう? 
 でも席替えの件をここでは話題にしない方がいいように思った。私たちと離れたがっている、などと捉えられては困る。また井崎さんに、誰と隣になりたいの? と突っ込まれるのも嫌だ。なのでこの話は吾郎に振ることにしよう。放課後の塾で、ということだ。

 そこでまた彼女たちの会話に耳を傾ける。小島さんは絵画教室に通っているらしい。その話をしながら、何か習い事をしているか、と皆に尋ねてくる。龍太も会話に参加することになるが、今の龍太は進学塾にだけ通っているので、素直にそう答えた。女の子三人は誰も塾には通っておらず、話が膨らまない。質問は井崎さんに向かった。
「う、うん。私、前はエレクトーン行ってたんだけど、今は……」
 ちょっと間をおいて井崎さんが続ける。
「ミニバスにちょっと顔を出すことがあるくらいかな?」
 小島さんと土井さんは活発に体を動かすタイプではない。が、興味はあるようで土井さんが話を受ける。「え、バスケットボール? さすが、カッコイイね、井崎さん」
「うん、まあ、でも、ちょと顔出すくらいだから……」龍太には井崎さんの表情が歪んで見えた。ちょっと意地悪な質問になるな、と思ったが、龍太は思い切って会話に参加した。
「あれっ、井崎さん? 野球のマネージャーは?」
 井崎さんは一瞬龍太を睨んだが、すぐに笑顔になって話を始めた。
「ああそうか。習い事じゃあないから言わなかったけど、それがあったね」
 そこから女の子三人でマネージャーについての話が始まった。女子にとって運動部のマネージャーは憧れの一つらしく、運動にあまり縁のない小島さんや土井さんも興味深そうだ。だが、龍太には分かった。井崎さんが喋りにくそうにしていることが。
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