第24話

文字数 1,153文字

「そうだな、どっちもいいけど、やっぱり堤さんかな」
 なるほど。これで昭が本当は堤さんの方が好き、なんて信じる奴は泰史以外にいないだろう。でもこの場は取り持たれる。昭はどこか抜けたように見えて、泰史の扱いが上手い。だからここまで、昭と泰史は仲良くし続けられたのだろう。

 本当に機嫌を直してしまった泰史は、先ほどまでの鈴原さんへの悪口も何とも思っていないようだ。そして、「じゃあ、昭は堤。龍太は山田。洋一郎は、どうなんだよ?」
 山田さんのことが好きなのだと認定されてしまったが、もう恥ずかしさは消えていた。それより嘘をつかされる昭に同情した。そして話を振られた洋一郎の言葉を待った。

「俺は……。実は龍太と同じで山田さんがいいと思ってる。だから今日はちょっと悔しかった」
 龍太が言葉を継ぐ前に、泰史が言い始めた。
「そしたら、龍太と洋一郎はライバルじゃん。決闘しろよ、なあ」
 先ほど上手くとりなした昭も合いの手を入れてくる。調子のいい奴らだ。
「まあでも、本気で二人が告白とかしたら、選ぶのは山田だろ? それに、お前らはせいぜい毎日いがみあうくらいだろ」と吾郎が続けた。吾郎、やっぱりセリフが大人だ。
「じゃあ、吾郎はどうなんだよ?」と泰史。ここまでの流れで、まさか鈴原さんが出てくることはないだろう。も、もしかして、山田さん?

「俺はさあ、クラスにはいなくて。四年で転校しちゃった大沢が今でも好きなんだよな。実は手紙の交換をしてるんだ。みんなには内緒だったけど。真由美にはバレてる。あいつも大沢とは仲良しだったから。大沢が転校してからひどくなったよね、贔屓とかチクリとか」
 ここまではっきり言われると、さすがの泰史も、クラスでは誰なんだ、とは聞けないようだ。
「で、泰史。お前は、やっぱり真由美がいいの?」
 泰史は寝たふりをしはじめたようで、静かだった。やっと平穏な夜が来た。洋一郎との関係を考えなきゃならないぞ、と思いながら、いつの間にか龍太も眠ってしまった。

 翌朝、山田さんは孝弘と楽しそうに喋っていた。バスの座席は左右のブロックで男女を分けていたので、車内でも話し続けることはないだろうが、気になる。洋一郎とは話しづらい空気があったが、龍太は目と指とでサインを送り、孝弘の行動を洋一郎に伝えた。敵の敵は仲間なのである。学校からは各自徒歩で帰宅する。山田さんの家は、龍太とは全く逆。孝弘も違う。方向的には洋一郎が同じだ。今度は拳を握って肘を突き立て、洋一郎を牽制する。洋一郎はさっとピースサインを作り、山田さんに近付いた。違うよ、こら! 山田さんはしかし、同じ方向の女子三人と固まっていて、洋一郎ははじき出されていた。ざまあみろ。孝弘も含めて、これから俺たち三人で戦うことになるぜ、と思った。そして夏休みに突入した。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み