第104話

文字数 1,094文字

 十一月一日の朝。今日は席替えだ。結局泰史は学校に現れなかった。九月の時と同じように男女別に抽選をした。今回は女子が先に席を決め、一旦廊下に出る。入れ替わりに龍太たち男子が教室に入り、くじを引いた。龍太の席は真ん中に近い。前の席が酒井昭だった。後ろは高橋航平。龍太にとっては、航平と下の名前で呼ぶほどの関係ではない。前から順に頭の数を数えてみると、同じ班になるのは昭のようだ。果たしてうまくやれるだろうか。そう思いながら、昭に声をかけた。
「昭、同じ班みたいだね。よろしく」
「おう、龍太か。同じ班になるのは、三年の頃以来か? 仲良くやろうぜ!」
 泰史の件で対立する関係にある二人が同じ班になってしまうのが抽選の怖いところだ。ただその話題には触れないでおくのが今は一番だろう。当然二人は、隣に来る女子が誰なのか、ということに関心がある。他の席に座る級友たちと同様に、二人で予想を立てる。この場合は予想ではなく、希望だが。
「正直なところ、前の席が楽し過ぎてな」
 昭が本当に正直に言うので、龍太は昭の顔をまじまじと見つめてしまった。
「また鈴原の近くがいいなあ。龍太はどうだ? 井崎の隣は良かったか?」
 マネージャーの件があるので、この話題にも慎重に対応しなければいけないと龍太は思った。
「ああ、まあ、別に嫌なことはなかったよ。今まで井崎さんとはほとんど喋ってこなかったから、その点は面白かったかな」
「あ、お前まさか? 井崎、気に入った?」
 なんとなくこちらを馬鹿にするような目つきをする昭に、嫌悪感を抱いた。
「そういう意味じゃないよ」少し語気が強くなったことを自覚する。
「ははは、向きになるなよ、龍太。かえって怪しいぜ」
 その声を聞き付け、松本孝弘がやって来た。
「離れちゃったな、昭。で、龍太? 井崎が好きになったのか?」
「だから、そういうのじゃない」
「ははは、でもお前の好きな『や』の付く人は、お前なんか……」
 聞き捨てならない。が、ここで暴れる訳にはいかないので、孝弘を睨むだけにする。
 ちょうどその時担任が教壇から声をかけて来た。
「はいみんな。自分の席は分かりましたか? その場所に戻りましょう。男子のみんなが席についたところで、女の子たちを教室に呼びますよ」
 孝弘は教壇側の出入り口そばに戻っていた。その向こうから女子の騒がしい声がする。きっと孝弘がそこに座ったのが見えたのだろう。今回もあそこに山田さんが入ってしまったら、今度こそ孝弘と山田さんが両想いになってしまうのではないか、とやきもきする。
 そして気が付いた。教卓真正面の席には誰も座っていない。あそこが泰史の席ということだろう。
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