第131話
文字数 1,171文字
黒いスピーカーは、ジーッと単調な音を流し続けていた。吾郎に遅れて門にたどり着いた龍太が、もう一度白いボタンを押した。やはり返事はない。家の中でも人が動く気配はなかった。
「やっぱり帰って来てないね」ボソッと洋一郎が漏らす。
「どうする?」振り向いた吾郎が二人に問いかけた。
「三人でしばらくやってく?」龍太が声を絞り出す。
吾郎も洋一郎も返事はしないが、帰ろうという素振りも見せなかった。来た道をとぼとぼと歩き出した時、正面に黄色い車が入って来た。タクシーだ。
三人の左をかすめてすぐに、エンジン音が止んだ。三人も立ち止まり、後部ドアが開くのを注視した。すぐに半ズボンの少年が体を出してきた。そして、三人に顔を向けた。
「吾郎! 龍太! 洋一郎! よかった、間に合った」
泰史はそう言って、三人に近付いてきた。まず龍太が、間髪入れずに吾郎と洋一郎も泰史に歩み寄った。そして肩や頭を叩きあった。
泰史は荷物を玄関に置いてすぐに戻って来た。左手にはグローブをはめている。そのグローブは真っ青で光沢が強かった。きっと新調したものだ。吾郎がすぐに指摘した。
「泰史、新しいグローブだな」
新しいグローブに気付かれてますます表情を崩す泰史を見て、三人も心が和んだ。
新品のグローブはやはり硬いのか、泰史はボールを何度かグローブの先に当ててしまっていた。吾郎はそんな泰史をからかった。泰史はニコニコしながらも、吾郎をからかい返す。一学期までは当たり前だった光景だ。それを見ていると、龍太はいじめや万引きなどまるで無かったかのような錯覚に陥りそうだった。
「龍太! ちゃんと捕れよ!」泰史にそう怒鳴られて、龍太は我に返った。泰史の投げたボールは砂利の上を転がり、駐車場奥にある壁の角まで到達してしまった。ゆっくり走ってボールに追いつき、右手でそれを握る。ここから投げても次の洋一郎には届かないだろうから、ボールをもったまま皆の近くへ戻るべく、小走りで動き出した。顔を前に向けたその時、三人より向こうに位置する道路に山田さんの姿を認めた。思わず走る速度も上がっていた。
「あれっ? 山田、どうしたの?」
やはり先に声をかけたのは吾郎だった。あの位置から声を出すとなれば、どうしても大きな声を出さなければ通じない。龍太はそう思っていたこともあって、呼びかけることはしなかった。それにあの場面で山田さんの名を叫ぶのは、とても恥ずかしい。
龍太が定位置にまだ戻っていない段階で、洋一郎も山田さんの名前を呼ぶようになった。龍太には自分が近頃、山田さんに近付けているという自負があったものの、林間学校の時から恋敵だと認識している洋一郎に負けるわけにはいかなかった。更に、山田さんの幼馴染で家が近い泰史もこの場にいるのだから、なんとかして山田さんの目をこちらに引かなければならない。
「やっぱり帰って来てないね」ボソッと洋一郎が漏らす。
「どうする?」振り向いた吾郎が二人に問いかけた。
「三人でしばらくやってく?」龍太が声を絞り出す。
吾郎も洋一郎も返事はしないが、帰ろうという素振りも見せなかった。来た道をとぼとぼと歩き出した時、正面に黄色い車が入って来た。タクシーだ。
三人の左をかすめてすぐに、エンジン音が止んだ。三人も立ち止まり、後部ドアが開くのを注視した。すぐに半ズボンの少年が体を出してきた。そして、三人に顔を向けた。
「吾郎! 龍太! 洋一郎! よかった、間に合った」
泰史はそう言って、三人に近付いてきた。まず龍太が、間髪入れずに吾郎と洋一郎も泰史に歩み寄った。そして肩や頭を叩きあった。
泰史は荷物を玄関に置いてすぐに戻って来た。左手にはグローブをはめている。そのグローブは真っ青で光沢が強かった。きっと新調したものだ。吾郎がすぐに指摘した。
「泰史、新しいグローブだな」
新しいグローブに気付かれてますます表情を崩す泰史を見て、三人も心が和んだ。
新品のグローブはやはり硬いのか、泰史はボールを何度かグローブの先に当ててしまっていた。吾郎はそんな泰史をからかった。泰史はニコニコしながらも、吾郎をからかい返す。一学期までは当たり前だった光景だ。それを見ていると、龍太はいじめや万引きなどまるで無かったかのような錯覚に陥りそうだった。
「龍太! ちゃんと捕れよ!」泰史にそう怒鳴られて、龍太は我に返った。泰史の投げたボールは砂利の上を転がり、駐車場奥にある壁の角まで到達してしまった。ゆっくり走ってボールに追いつき、右手でそれを握る。ここから投げても次の洋一郎には届かないだろうから、ボールをもったまま皆の近くへ戻るべく、小走りで動き出した。顔を前に向けたその時、三人より向こうに位置する道路に山田さんの姿を認めた。思わず走る速度も上がっていた。
「あれっ? 山田、どうしたの?」
やはり先に声をかけたのは吾郎だった。あの位置から声を出すとなれば、どうしても大きな声を出さなければ通じない。龍太はそう思っていたこともあって、呼びかけることはしなかった。それにあの場面で山田さんの名を叫ぶのは、とても恥ずかしい。
龍太が定位置にまだ戻っていない段階で、洋一郎も山田さんの名前を呼ぶようになった。龍太には自分が近頃、山田さんに近付けているという自負があったものの、林間学校の時から恋敵だと認識している洋一郎に負けるわけにはいかなかった。更に、山田さんの幼馴染で家が近い泰史もこの場にいるのだから、なんとかして山田さんの目をこちらに引かなければならない。