第2話

文字数 934文字

  まっすぐ一人で家に帰ってテレビを観る。弟はまだ小さく、チャンネルは一人占めできる。学校の様子を母は聞いてくるが、適当に流しておく。
  二つのチャンネルしか民放のない宮崎と違い、東京はチャンネルの数が多く、夕方は各局とも子供向けのアニメを放送していた。どれにしようか、と思いながらチャンネルのボタンを押す。
「いなかもん大将」を見つけたのは、その時だった。
 あー、これのことかあ、大ちゃん……

  東北っぽい(なま)りでいろいろやらかす大ちゃん。そういえば、体格も自分と似ている。母親には、学校で大ちゃんと綽名(あだな)をつけられたとだけ言っておいた。
  「それ何やと?」と母が尋ね返すが、聞こえない振りをした。大ちゃんも結構な腕っぷしなので、喧嘩するにしてもちょうどいいかな、とも思った。
  でも、東北と九州の言葉は少し似ているけど、違うものだとも思った。それもわからない東京の子は、やっぱり馬鹿だ、と解釈した。

 何日か経っても、クラスの声は止まなかった。
 掃除の時間だった。同じグループの男子が、真横で龍太の言葉を真似る。ついに何かが溢れてしまった。
  涙を流しながら、「何がいけんとや!」と叫んだ。
 そして、そいつに殴り掛かった。向こうも応戦してくる。そいつの仲間も二人入ってきた。女子は止めなさい! などと教師気取りのセリフを吐くが、だれも入ってこない。所詮は多勢に無勢。こちらには味方がいない。となると武器を持つしかない。

 床掃除のために教室の後方に下げられている机の一つを引っ張り出し、それを持ち上げた。そしてそれを投げつけた。流石に軽いものではなく、投げたつもりが転がったような形になった。幸い誰にも当たらなかったが、ここに及んでようやく担任教師が登場した。大人が入ってくると、武器を使った龍太が一番悪い、ということになってしまう。
 きっかけは間違いなく東京のもんが作っているのに、どうして自分が悪いことになるのか。宮崎の子は、、、と怒られると、宮崎にいる友達が皆怒られているようにも感じてしまう。それはおかしか無いちゃろか? しかし、東京のしゃべり方をしたらまたそれで自分がからかわれるのではないだろうか?
 目に涙を溜めながら考えた。どうすりゃいいっとや―?
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