第16話

文字数 941文字

「昭、起きてるんだ?」
「あ、龍太? 起こしちゃった? 今の話聞こえてた?」
「うーん、よく分からん。吾郎と鈴原さんの話だった?」
 泰史が入ってきた。
「なあ、龍太。聞いてたんだろ? それならお前も言えよな」
 正直なところ、断片的にしか聞いていなかった。鈴原真由美の名前が出てきたことは間違いなかったので、ちょっと探りを入れただけだったのだが。
「何のことか、よく分からないよ」
「お前、聞くだけはずるいぞ。俺ら今、好きな子の名前言ってたんだろ!」

「鈴原」と言った声は、泰史だったと思うが、確認できる雰囲気ではなかった。
 昭が誰の名前を言ったのか、分からない。なのに、俺は言わなきゃいけんのかな?

「だって俺、ちゃんと参加してなかったし、聞いてないよ」
「ダメだ、言えよな。なあ、昭?」
 逃げられないと思ったが、龍太には、意識して好きな女の子はまだいなかった。
 この夕方に、鈴原さんを綺麗だと思ったけど、これは言えないだろう。それでしばらく黙っていた。
「お前、言えないってことは? 一組の花子だろ、山崎花子? 時々庇ってたもんな、前から花子のこと。クラスが違って残念だったな? 趣味わりー」
 泰史と昭とがクスクス笑う。それは事実と異なるので否定してやりたかったが、花子のことを悪く言う流れになるのも嫌だった。だから、「違う」とだけ言って起き上がり懐中電灯を取って、外のトイレに行くことにした。
「逃げるのかよ?」と泰史に言われたが、「ここで漏らしていいのか?」と答え、勇気を持って外へ出た。
 本格的な夏が始まったとはいえ、さすがに少し冷える。照明灯はいくつかあるので、迷ったりはしないが、ちょっと怖い。宮崎の保育園で歌った記憶のある「お化けなんてないさ」を口ずさみながらゆっくり進んだ。用を足し、清々しい気分で仰ぎ見る夜空には、無数の輝きがあった。こんなに見えるとね。と宮崎弁でつぶやき、バンガローに戻らずに見とれていた。
 星を見ながら「好きな人」の答えを考えた。さっき鈴原さんのことを綺麗だなと思ったっちゃけど、どげんじゃろ? 吾郎と仲いいし、多分泰史も好きなんじゃろ。でも鈴原さんって、ちょっと怖いとこある気がすっとよねぇ。戻ったらまた聞かれるとやろか? 当たり障りがないのは、誰じゃろな……。
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