第4話

文字数 1,039文字

 友人ができると、学校には行きやすくなった。彼が龍太を(かば)う場面はなかったが、表立って攻撃されることは減っていった。お互いの家で遊べる子は、彼が初めてだった。東京と言ってもここはまだ自然の残る丘陵地帯だ。竹林に入り、テレビで流行っていた「山口ヒトシの探検隊」ごっこをして遊んだ。

 やがて言葉も東京風になっていった。そのことでからかわれたりはしなかった。逆に時々、宮崎弁を(しゃべ)ってみろ、と言われることはあった。当初なら龍太が殴り掛かり、喧嘩に発展した場面だ。それも「もう忘れたと」と宮崎のアクセントで答えながら軽く相手を叩く程度になっていった。龍太以降、学期毎にやってきた転校生たちに、言葉の違いは目立たなかった。しかし視線は彼らに注がれ、龍太は転校生という(くく)りから外れ「大ちゃん」と呼ばれることもなくなった。そして、新しい転校生たちがいじめられているようには見えなかった。

 そんな中、龍太には気になることがあった。クラスには左足に障害のある、花子という女子がいた。その花子に対し、一部の児童が攻撃的な態度をとるのだ。男子に限らず、仲間意識が強そうな女子の中にも、そのような行動をとる者がいた。花子はずっと地元の子だ。これまでからかいの対象になっていたかは分からない。龍太自身への攻撃が減ったことで、それに気が付いたのかもしれない。
 左足を引きずるように歩く姿を、あからさまに真似てからかう場面も目撃した。いけないことだと思いつつも、制止することはできなかった。時には同調してしまうこともあった。

 それではいけない、と思いその場から離れたり、「止めようぜ」と声をかけることもあった。しかしそんな時には、こちらがからかわれてしまう。
「お前、あいつが好きなの?」
「何かっこつけてんの?」
 だから極力関わらないことでしか、思いを実現できない。本当にそれでいいのか? 悩みながらも日々は過ぎていった。

 学年が上がり、四年生になった。クラス替えはなく、担任教師も持ち上がりだった。安心と不満とが入り混じった気持ちだった。子どもたちの成長と共に、クラスの雰囲気は変わっていった。龍太に対するからかいだけでなく、花子に対する態度も、軟化していった。龍太は更に勉強を頑張り、授業時間には一層目立つ存在になった。攻撃はされずに、皆が意見を聞いてくれるようになっていた。龍太の素行も落ち着き、学級委員にも選ばれた。成績表には、「喧嘩が減りました」と書かれていた。両親には色々聞かれたが、笑って誤魔化した。
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