第33話

文字数 1,179文字

 父は結構しっかりと分かってくれているようだった。仲間外れを作っていじめ、そのターゲットが入れ替わるのも昔と同じだと言った。まず龍太が、いじめの首謀者である昭に取り込まれていないことを褒めてくれた。更に、苦手な泰史のことを心配している点も気遣ってくれた。その上で、一人で解決しようとしないことだな、と言った。また、時間が経てばまたターゲットも変わるだろうけど、それまでに泰史がおかしくならなければいいよね、とも言っていた。そして「ま、てげてげにな」とまとめていた。

 確かに、自分の時も吾郎の時も、二か月くらいの辛抱だった。次が自分にならないように気を付けつつ、その時を待てばよいのかもしれなかった。でも、弱くなっていく泰史を近くで見なければならないのも、意外にきつかった。全面的に(かば)おうとは思わないが、陰ながら応援はしてやろうと思っていた。だから無視が始まっても、それには加わらないつもりだった。野球があるのでロクヨンはない、という吾郎の説は、今回も当てはまったが、その分昭や孝弘からの悪口が(ひど)い。あれで泰史が殴り掛からないのだから、立場の変化は明確なのだと思う。

 そして父の言う、「一人で解決しようとしない」も間違いない。学級委員としての吾郎には期待できないが、野球クラブにいたことがあり、受験しようという意識があるくらいだから泰史側に立った考えもできそうな気がする。洋一郎は泰史に使われているが、昭になびかないので、相談しやすいかもしれない。そして、あの席にいる山田さん。少なくとも彼女からの情報は敵を知る意味でも重要だと思った。今度こそ、あの見栄えのしない埴輪の三色ボールペンを渡して、話をしようと決心した。


 順序として、まず吾郎に確認した。吾郎は、泰史の地位が急速に低下したことは勿論わかっていたし、昭がその企みの中心にいることも分かっていた。そして、泰史にいままでされてきたことはやはり腹が立つが、その泰史は、今の昭と違って野球クラブの和をちゃんと考えていた、と思っている。今の昭がやっているのは、泰史を野球クラブから追い出すことが目的なのかもしれない、と考えていた。でも、レギュラーを勝ち取った昭が、選ばれなかった泰史を追い出す理由は、吾郎にも龍太にも想像できなかった。
 洋一郎は、泰史に不満を抱きつつも、急にのし上がった昭には納得いかないようだった。泰史を助ける、というのは違う気がするが、昭の味方には絶対ならない、と決めていた。理科室掃除で二人になった時に直接聞いた。洋一郎は逆に、山田さんとのことはどうなっているのか、と龍太に聞いてきた。洋一郎は隣の春日さんと仲良くなっているように思っていたが、今でも本命は山田さんなのだと言っている。俺も全然だめだよ、と龍太は答えたが、このあと彼女と泰史について話をしようと思っていることは黙っておいた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み