第145話

文字数 1,199文字

 月曜の朝、学校に着くなり昭が話しかけて来た。
「一昨日、泰史と会ったのか?」
 龍太が頷くと昭はちょっと困ったような表情になった。
「そうか。やっぱ謝ることになるんだな」
 明が本当に嫌そうな顔をしていたので、龍太は思わず言った。
「昭はそんな気持ち全然なさそうだね」
「そりゃそうだ。泰史に散々やられてきたんだ。何て言うんだっけ、じぎょう……」
「自業自得」龍太はわざとらしく呆れた表情を作った。
「そう、それ。さすが龍太くん」
 その時龍太の右隣に河田さんがやって来た。
「あれ? 何だか、仲良さそうね」
「そりゃそうだ。俺たち仲間だからな」
 そう言って笑う昭を見て、本当の気持ちを出すというのは想像以上に難しいことかもしれないと龍太は思った。
 程なく山田さんが龍太の左隣にやって来た。ちょっと恥ずかしく感じ三人の会話を続けていたが、山田さんの方からおはよう、と声を掛けられた。山田さんの更に左にいるはずの清水に言っているのではない。でも、龍太一人にかけているにしては声が大きい。三人に向けて山田さんは挨拶をしているんだと理解した。
「おはよう」と返しながら、山田さんの顔をちょっと見ただけで河田さんと昭との会話に戻ってしまった。山田さんの反応は確認できなかった。
 授業中も山田さんの顔をまともに見ることができなかった。山田さんの方も意識しているのかどうか分からなかったが、話をすることもなく給食の時間も過ぎてしまった。
 昼休みになっていつものように洋一郎と廊下で話をした。あの後龍太が山田さんの家に行ったことは、知らないようだった。が、そこに吾郎が入って来た。
「よお、龍太、洋一郎」
 昼休みの吾郎は特定のメンバーでつるむことはなく、日替わりでいろんな人と遊んでいる。その中には昭たちも勿論入っている。だからこそ吾郎にはいろいろな情報が入っているのだが、逆に言うと龍太のことも漏らされているかもしれなかった。
「龍太、今日は山田と話をしていないようだけど?」
 やっぱりそう来たか。吾郎はいい友達だと思っているけれど、こういうところがあるので完全に信用しきれなかった。その吾郎から、山田さんが洋一郎を好きになることは無いと断言されていたが、林間学校の時には洋一郎自身が山田さんを好きだと言っていたのだ。
「まあ、うん。これからだよ」
 そう言ってちらりと洋一郎の顔を伺った。特に驚いた様子には見えなかった。
「でも、何か話さないと、この前の苦労が報われないぞ」
 吾郎が言うと、洋一郎がそれに続いた。
「龍太、そうかあ。とうとうその段階に」
「え?」龍太は洋一郎の顔を見かえした。
「俺、山田さん結構好きだったけど、やっぱ無理か。龍太なら仕方ない」
「うん……」
「だったらもうな、ビシッと決めてくれ。完全に諦めさせろ、俺に」
「そう、だね」
 吾郎が嬉しそうに龍太の肩を叩いた。
「今日の帰り、一回集合。塾の前に龍太からの報告会を行います!」
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