第83話 ハリセン・ポッターとダンスパートナー
文字数 2,130文字
鬼一の遺体が警察署に運ばれて行き、DSP(デビルスペシャルポリス)のメンバー達が去った後の現場では、一羽のカラスが飛び立とうとしていた。
が、いきなり何者かに掴まれて、グシャと握り潰されてしまった。
「そのカラスは、なんや?」
にぎり潰されたカラスからは血が流れず、金属片がパラパラと崩れ落ちていく。
「偵察用のロボットですよ。おそらく、この現場で起こった事は、すべて白鬼さんの元に送られているはずです」
鬼塚と川島であった。
「しかし、あの死の魔神ってのは恐ろしい奴やな。俺は、ちょっとビビって出したらアカンもんが出てもうたわ」
「あれは、そうとう優秀な術者だけが、命と引き換えに呼び出せる魔神です。もう二度と見ることは無いでしょう」
「そうなんや、それやったら良いんやけど」
「それよりも、早く夜叉さんに今回のことを伝えましょう」
「えっ、今からか?」
「そうですよ。白鬼さんの事は、すぐに伝えろって言われてたでしょ」
「明日じゃ、ダメかな」
「ダメでしよ」
「アカン、お腹が痛なって来た」
鬼塚は、腹部を押さえて、うずくまった。
「アンタは小学生ですか、まったく。しっかりして下さいよ、スマホで電話すれば良いだけじゃないですか」
「お前は簡単に言うけど。俺には、それが難しいんや。夜叉さんに電話しないとアカンと思っただけで、食欲と戦闘力とスマホの指紋認識能力が落ちるんや」
「食欲と戦闘力までは、わからんでもないですが、なんでスマホの指紋認識能力まで落ちるんですか?」
「いや、なんでか指紋が萎縮してもうて、スマホが起動しないんや。だから電話がかけられへんのや」
鬼塚は、よくわからない言い訳をして、夜叉へ電話をかける事を拒んでいる。
「訳のわからない事を言ってないで、さっさと電話して下さい!」
そろそろ川島がキレかけて来た。
「そんなに怒るなや。今から、かけるがな」
という具合に、川島にキレられながら、しぶしぶ夜叉に報告する鬼塚であった。
大阪の北区で行われた鬼一の葬式には、東京から安倍康晴も駆けつけて来た。
東京から鬼一を、大阪DSPに連れて来た責任を感じているのであろう。
参列者は、ほとんどが警察関係者である。
「あの娘は確か」
まだ10代だと思われる女の子が泣いているのが見えた。
ーー確か虎之助というDSPの転生者だ、鬼一君が付き合っているとメールで言ってたな。鬼一君が死んで辛いだろうなーー
しばらく、泣いている虎之助を眺めていた安倍康晴は
ーー兄に続いて鬼一君まで亡くなるとは。幸い東京は落ち着いている事だし、次の顧問が決まるまでは自分は大阪に残ろうーー
と決心した。
葬式の翌日に、桜田刑事と共に安倍康晴が宿舎にやって来た。
「今日から、しばらくの間、臨時に顧問を務めさせてもらう安倍康晴です」
安倍は、みんなに挨拶した。とはいっても武蔵と少年である左近以外とは、以前に会ったことがある。
「臨時ということは、短期間ということですか」
岩法師が聞いた。
「私は一応、東京DSPの顧問なので。それに、正式に大阪の顧問になってもらいたい人が居るんだ。まだ交渉中なんだが」
「へえ、どんな人やろ?」
小太郎は、興味がありそうにしている。
「まだ言えないが、頼りになる人だ。それまでは私が代理を務めるので、よろしく頼みます」
安倍は軽く頭を下げた。
「こちらに、よろしくお願いします」
DSPのメンバーたちも頭を下げる。
しかし、虎之助の姿が見えない。
「虎之助が居ないようだが」
気になって、安倍が尋ねた。
「どこかに出掛けてしまいました。鬼一さんが亡くなってから、姉さんは荒れてるんですわ」
「そうか、恋人を亡くしたのだから無理もないな」
自身も鬼一の前任の顧問であった兄を亡くしている安倍は、虎之助にひどく同情した。
その頃、鬼一を失った虎之助は、連日ゲームセンターに入り浸り、UFOキャッチャーとプリクラに熱中していた。
ーーショッピングセンターにあるゲームセンターは、子供向けのゲームしか置いてないので、つまらないでござるーー
と、不満に思いながらもグレていた。
「ちょっと、お姉さん」
不意に声をかけられて振り向いて見ると、なんとハリセン・ポッターである。
「お主は、魔法学校に帰ったんじゃなかったのござるか」
疑問に思い虎之助が聞くと。
下を向きながらハリセン・ポッターは
「一度、帰ったけど。今夜、魔法学校でダンスパーティーがあるんだ」
と恥ずかしそうに言った。
「そうなのでござるか。それで拙者に、何か用でござるか」
「それが、その」
ハリセン・ポッターは赤くなって、うつむいている。
「何でござるか」
「実は、その……」
ハリセン・ポッターは、モジモジしてハッキリと話さない。
「用が無いのなら、拙者はもう帰るでござる」
虎之助は席を立ち、ゲームセンターから出ようとした。
「僕のダンスパートナーに、なって欲しいんです」
思い切ってハリセン・ポッターは、大きな声で頼んだ。
「ダンスパートナー?」
「実は、僕だけダンスパーティーのパートナーが居ないんです。あなたの様な美しい女性が来てくれると嬉しいのですが」
「拙者が、でござるか?」
ハリセン・ポッターから、いきなりの誘いに戸惑う虎之助であった。
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