第30話 リンゼイ老師VS虎之助 後編
文字数 2,942文字
安倍康晴と鬼一は、リンゼイ老師と対峙していた。
その後ろで小太郎とメイド少女戦士マリリンが、前回から引き続きゲラゲラ笑っている。
「京八流の剣を受けてみよ!」
鬼一は、リンゼイ老子に向かって斬り付けた。が、まったく手応えが無い。
何度か斬り付けるも、紙一重のところでリンゼイ老子は刃を避けてしまう。
安倍は御札を取り出して、鎧武者の式神を呼び出し、リンゼイ老子に向かわせる。
「こんな手品は、ワシには通用せんぞ」
リンゼイ老子が、呪文を唱えると、鎧武者は一転して鬼一に向かって攻撃を仕掛けてきた。
鬼一は鎧武者の攻撃を受け止めると、跳躍してリンゼイ老子の頭部を斬り付ける。
ブスッ!
とっさに避けたリンゼイ老子の額に短刀が刺さった。
安倍が避ける方向を予測して短刀を投げたのである。
パタッ、とリンゼイ老子は倒れた。
「やったか!」
と、安倍が叫ぶが
「いえ、油断は禁物です。この老人は、これぐらいで死ぬようなタマではありません」
鬼一は、まだ刀をリンゼイ老子に向けて、かまえている。
安倍も用心して、少し距離を置いて様子をうかがう。
リンゼイ老子は、倒れたまま、ピクリともしない。
「今のうちに、毒入りコーヒーを飲ますでござる」
いつの間にか、そばに来ていたメイド少女戦士マリリンが、リンゼイ老子の口をこじ開けてコーヒーを飲まそうとした。
「やめんか!馬鹿者!」
ドスッ!
再び、リンゼイ老子の掌底を食らって、メイド少女戦士マリリンは吹っ飛ばされた。
リンゼイ老子は立ち上がって
「死んだ振りをして油断させていたのに、とんでもないバカ娘じゃ」
と、怒っている。
「やはり、生きていたな」
鬼一は、かまえを崩さない。
立ち上がったリンゼイ老子は、額に刺さった短刀を抜きながら
「これしきの事では、ワシは死なん」
と、血を流しながらも、平然としている。
「姉さん、パンツが丸見えでっせ」
吹っ飛ばされて、ひっくり返っているメイド少女戦士マリリンのスカートがめくれて下着が見えている。
小太郎は、ダメージよりパンツに関心があるようだ。
「これは、見せパンだから、見られても大丈夫でござる」
「そんなパンツがあるんでっか。さすがは姉さん、オシャレでんなぁ」
「拙者のオシャレさは、パリの社交界で、クフッ………」
「あれっ!姉さんが気を失ってもうた!姉さん、姉さん!」
メイド少女戦士マリリンが気を失ってしまい、小太郎は焦った。
「そうや、こんな時には水を飲ませれば良いんや。どこかに水がないかな?おや、こんな所にアイスコーヒーが。よし、姉さんに、このコーヒーを飲ませよう」
小太郎はメイド少女戦士マリリンに、アイスコーヒーを飲まそうとしたが
バキッ!!
「うへーっ」
メイド少女戦士マリリンに殴られて吹っ飛んだ。
「これは拙者が用意した毒入りコーヒーでござる、このたわけ者!!」
「クフッ……」
今度は、小太郎が気を失った。
「ジジイの真似して、死んだ振りしてたら、小太郎に毒殺されかけたでござる」
安倍と鬼一の2人を相手にして、さすがのリンゼイ老子も押されて来ている。
「なかなか、しぶとい爺さんだ」
安倍が呪文を唱えると、右手に古びた剣が現れた。
「すべての妖魔を抹殺する破魔の剣だ。これでとどめを刺してやる」
「そんな玩具では、ワシは倒せんぞ」
「それは、どうかな」
安倍が剣を十字に振ると、間合いの外に居るハズの、リンゼイ老子の腹部が十字に切られ、大量の血が吹き出した。
「なるほど。思っていたよりやりおる」
しかし、血を吹き出しながらも、リンゼイ老子は平然としている。
「なにか、おかしいですよ」
鬼一は、リンゼイ老子の異変に気付いた。
リンゼイ老子の体中から泡が吹き出し、体全体が泡に包まれた。
「死んだのか?」
なにが起こっているのか、わからず。安倍が呟く。
泡が少しづつ流れ落ちて行き、本体が見えて来る。
上半身が裸で、腰に布を巻いた髭面の男が、泡の中から現れた。
驚くべき事に腕が4本もある。
「この姿に戻るのは何百年ぶりかのぉ。ワシの本当の名は、国際電器保安協会、三神の一人、ブラフマー。この姿を見た者には、確実に死が訪れる」
さすがの、安倍と鬼一も、思わず数歩退き距離を開けた。
「安倍さん、ヤバいですよ。奴からは得体の知れない強大なエネルギーを感じます」
「わかっている。アイツは、ただの強化人間などでは無い。ブラフマーといえばインドの最高神の一人だ、もしや、あの男」
「その通り、ワシは最高神ブラフマー。お主ら人間どもを造った、三神の一人じゃ」
「神だと。お前が神なら、なぜ我ら人間に敵対するのだ?」
鬼一は、まだ刀を構えたままである。
「人間に敵対などしておらん。お前たち異能者と鬼は、人間を創造するにあたって出て来た不具合、要するにバグじゃ。我らはバグを消去しているだけじゃ」
ーー人間を創造た神だと。そんな者を相手に戦って、我らに勝ち目はあるのか?ーー
ブラフマーは、全身から凄まじい神気を吹き出し、圧倒された安倍と鬼一は、思わず後退して行く。
ーーこれは、とても我らの勝てる相手では無いーー
リンゼイ老師の正体を知らされ、安倍と鬼一は戦意を失いかけている。
が、気が付くと、いつの間にか、ブラフマーのすぐ横にメイド少女戦士マリリンが来ており
「ジジイ、能書きは、いいから。さっさと毒入りコーヒーを飲むでござる」
と、無理やりブラフマーに毒入りコーヒーを飲まそうとした。
「うわっ!何だこのバカ娘は!やめんか!!」
ブラフマーは抵抗するが、少しコーヒーを飲んでしまった。
「おえーっ!神に毒入りコーヒーを飲ませるとは、このバチ当たりが!」
ーーメイド少女戦士マリリン。味方ながら非常識で恐ろしい奴ーー
安倍と鬼一は、冷や汗をかきながらも見守る事しか出来ないでいる。
「メイド少女戦士マリリンは、一度狙った相手は必ず殺すでござる」
「貴様!最高神である、このブラフマーに勝てると思っているのか!」
「ゴチャゴチャ言ってないで。お前は、このコーヒーを飲んで、死んだら良いのでござる」
また、少しコーヒーを飲んでしまった。
「クソっ!気分が悪くなって来た。こんなバカ娘は相手に出来ん。今日のところは、これまでだ。また会おう」
そう言うと、ブラフマーは宙に浮かび、そのまま消えてしまった。
ある居酒屋では、若林が黒瀬に愚痴っている。
「確かに僕は左近に2連敗しましたけど、いきなり死刑は無いでしょう」
「まあ、でも結局は、うやむやになったんだろ?俺なんか三ヶ月の減棒処分だ」
一応、若林をなだめているが、黒瀬も似たような境遇である。
「黒瀬さんも、虎之助さんに返り討ちされたんですよね」
「ほんま、やってられないな」
お互い、愚痴り合いになって来た。
「あれっ、あそこに居るのは、霊気さんじゃないですか?」
2つ隣のテーブルでは、隠型鬼と三吉鬼を連れた霊気が、楽しそうに酒を飲んでいる。
「霊気さんは、命の恩人なんで、ちょっと挨拶して来ます」
若林は席を立つと、霊気のテーブルに向かって行った。
黒瀬は、若林の後ろ姿を見ながら
ーーそろそろ、俺も田舎に帰ろうかな。できれば、大阪で彼女が欲しかったんだけどなぁーー
と、思いながら、わびしくハイボールを飲むのであった。
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