第38話 左近の帰還
文字数 3,370文字
「こいつを見れば、大阪DSP[デビルスペシャルポリス]の奴らビビるだろうな」
「こんなんで大丈夫なんか?」
「大阪の奴らは、ぬるい相手としか戦ってないから、このぐらいでちょうど良いんだよ」
京都DSPでは、芹沢鴨が左近の治療を終えた処であった。
「芹沢はんも、人が悪いでんな」
芹沢と同じ京都DSPの転生者である堀安次郎は、現在の左近の姿を見て、さすがに少し大阪DSPに同情している。
堀は転生する前、芹沢のような名のある人物では無かったが、どんな悲惨な負け戦でも無傷で帰還して来たという武芸の達人であった。
しかし、あまりにも強過ぎたため、敵方に買収された同僚に寝込みを襲われ惨殺されてしまった。
自分と同じように、部下に殺された芹沢とは気が合うようで、自然と一緒に行動することが多い。
「なに言ってんだ、俺は優しいぞ。頼まれた通り、ちゃんと左近に取り憑いた阿部仲麻呂を祓ってやったんだからな。グワッハッハッハ」
と、芹沢鴨は、堀の心配を他所に高笑いをした。
ライアンとマーゴットが、相変わらずアメリカ村の公園でたむろしていると
「あれっ!あの2人、この前、死んだんじゃなかったっけ?」
「ほんとだ。2人で殺し合って地獄に落ちたはずよね」
目の前を、虎之助と小太郎が仲良く歩いており、なぜか2人から湯気が出ている。
「いやぁ、地獄の温泉は気持ち良かったでんなぁ」
「ホントでござるな」
「姉さんなんか、お肌がスベスベになって色気が増してますやん。こりゃ、男がほっときまへんで。俺が男なら、ぜひ嫁に欲しいぐらいですわ」
「俺が男ならって、小太郎は男でござろう」
「そうでしたわ。こりゃ、一本とられましたな」
2人はゲラゲラ笑いだした。
「ちょっと、なにが可笑しいのか全然わからないけど、アンタら地獄に落ちたんじゃないの?」
気になったマーゴットが尋ねてみた。
「地獄の温泉に、2人で入って来たでござる」
まだ虎之助からは、湯気が出ている。
「地獄ってそんな所なの?鬼が大勢いて恐い所だと思っていたわ」
「そういえば、鬼がいっぱい居てはりましたな」
「5人ほどブッ殺したら、泣きながら温泉に案内しくれたでござる」
火照った顔で虎之助が説明する。
「石鹸やタオルも貸してくれて、親切な鬼たちでしたわ」
小太郎も満足げである。
「美味しい食事も出してくれたでござる」
湯気を出しながら、虎之助はニコニコしている。
ーーやっぱり、コイツら関わったらダメな奴らだわーー
マーゴットは、改めて決意するのであった。
日本テクロノジーコーポレーションの社長室では、久しぶりの長期休暇を終えた社長の鬼塚と川島が話し合っていた。
「いやー、久しぶりに家族で温泉に行って癒やされたわ」
鬼塚は、ご機嫌でアイコスを吸いながら話している。
「どこの温泉に行かれたんですか?」
「地獄にVIP用の温泉が出来たって聞いたんで、行って来たんや」
「へえ、そんなんが地獄に出来たんですね」
「それが、その温泉で不思議なことがあってな」
「どんな事です?」
「男湯に高校生ぐらいの普通の人間が入ってたんや。なぜか鬼たちは、そいつに親切で、飲み物やら寿司やらを振る舞ってたんや」
「なんで、ですかね」
「俺も、そう思って鬼たちに聞いたら、泣きそうな顔になりよったんや。俺は知っての通り空気読むのが得意やから、可哀想になって聞くのを止めたんやけど。後で嫁から聞いたら、女湯にも高校生ぐらいの普通の女の子が入ってたそうなんや。ほんで、同じように鬼たちから接待されてたんやって。不思議やろ?地獄のVIP用の温泉にやで」
「確かに不思議な話ですね。実は私も、妻との海外旅行中に不思議な体験をしたんですよ」
「なんや川島。お前もか」
「関空で何故か火星行きの便があって、火星に行って来たんです」
「嘘やろ?」
当然、鬼塚は信じない。
「それが本当なんです。火星に着いたら、中年の男とその娘がタピオカミルクティーの屋台を開いていて、飲んでみたら思いのほか美味しくて」
「ちょっと待てや。俺の話より、お前の話の方が10万倍ほど不思議やんけ!」
「本当の事だから仕方ないでしょう。そして、その親子以外の火星人は、なぜかタコでした」
「そこはホンマっぽいな」
その部分は鬼塚も納得した。
「ところが、タコの群れの中に、銅鬼に似た男が居たんですよ」
吸い終わったアイコスを、ハイざらに捨てながら
「そんなアホな!」
鬼塚は、言ってから少し考えて
「いや、そういえば、銅鬼は鬼ロボに火星まで飛ばされたんやったっけ」
と、言い直した。
「そうなんです。今、考えると、あれはやっぱり銅鬼だったんですね」
川島が話を終えると
「この世には、まだ不思議な事があるんやな」
鬼塚は、2本目のアイコスを吸いながら呟いた。
京都から大阪DSPの宿舎に、安部康晴が戻って来た。
取り憑いていた阿部仲麻呂のお祓いが終了して、完治した左近を連れている。
「ご苦労様でした安倍さん」
玄関まで出迎えた鬼一と岩法師であったが、安倍が連れている左近の姿を見ると、思わず絶句してしまった。
なんと、どう見ても11〜12歳の少年である。
「僕、左近。よろしくね」
「あっ、ああ。よろしく」
あまりの驚きに鬼一は、言葉に詰まってしまった。
「左近さんが、小学生になってもうた」
玄関まで出て来ていた小太郎は、左近を見て嘆き出した。
「なんだか可愛くなったでござるな」
意外と、虎之助からは好評である。
「たいして変わんねえだろ」
あいかわらず、狂四郎は冷めている。
「あの芹沢さんが素直に引き受けてくれたので、おかしいとは思っていたのだが、こうなってしまった」
安倍は、バツが悪そうにしている
「まあ、細かい事は気にしないで、みんな仲良くしようよ」
なぜか、左近だけは明るい。
「そっ、そうだな左近。お前、腹減ってないか?」
気持ちを切り替えて、岩法師が話しかけた。
「僕、ハンバーガーが食べたい」
ーーハンバーガーだと。以前の左近は和食が好きだったのだが、好みも子供っぽくなったかーー
「わかった。注文してやるから、そこに座って待っててくれ」
食堂のテーブルを指さしながら、岩法師は電話をかける。
「ありがとう、おじちゃん」
左近は笑顔で応えた。
ーー左近に、おじちゃんと呼ばれるとはーー
岩法師のテンションは、だだ下がりである。
「綺麗なお姉ちゃん、僕と結婚してよ」
いきなり、左近が虎之助にプロポーズして来た。
「姉さんは、オッサンと子供からモテまんなぁ」
腕組みしながら、小太郎は感心している。
「やめとけ左近、こいつはアホだぞ」
狂四郎が、虎之助を見ながら言った。
「歴史上で一番馬鹿である、お主に言われたく無いでござる」
馬鹿にバカと言われて、怒った虎之助。
「そうや。しかも、お前の彼女はブスやし」
小太郎も便乗して悪口を言い出した。
「なに言ってやがる!桜田刑事は美人だぞ」
「いや、ドブスや」
「桜田は、意地悪でござる」
「黙れ、貧乳!」
カチン!
「狂四郎!貴様、ぶっ殺すでござる。唐沢家忍術『冥界門』」
虎之助はブチ切れて、忍術を使いドアを出現させた。
「この『どこでも冥界ドア』は『どこでもドア』に似ているが、行き先は全て冥界でござる。狂四郎!お主を冥界へ落とすでござる」
虎之助は狂四郎の首を掴むと、『どこでも冥界ドア』へ押し込んで行く。
「クソっ、俺は一人では死なないぞ。Aカップ娘、お前も道連れだ」
狂四郎は、虎之助の左手を強く引っ張った。
「こらっ!離すでござる」
2人は揉み合いながら、ドアの向こう側にある冥界へと落ちて行った。
「冥界は嫌でござる〜」
虎之助の叫び声が遠のいて行く。
「俺も、面白そうやから冥界に行ってみよう」
小太郎は自ら『どこでも冥界ドア』へ入って行った。
バタン!!
ドアが閉まると、フッと『どこでも冥界ドア』は消えた。
「岩法師のおじちゃん。あの人たちは、どこへ行ったの?」
3人の喧嘩を見ていた左近が尋ねる。
「あの空の星になったんだよ」
岩法師は、空を指さしながら優しく答えた。
「綺麗な、お星様だね」
「人は死ぬと、お星様になるんだ」
ピンポーン!
玄関のチャイムが鳴った。
「ハンバーガーが届いたようだ。一緒に食べよう」
「わーい」
という訳で、左近は多少の問題は有るものの、大阪DSPへ帰還したのである。
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